心を半分残したままでいる
」のレビュー

心を半分残したままでいる

砂原糖子/葛西リカコ

短編集まで読んで本当の一区切り

ネタバレ
2024年5月28日
このレビューはネタバレを含みます▼ これはあらすじに書かれている通り、中上の「ひたむきな愛」の物語です。

主人公の静良井が何度目かの記憶喪失になってから1年半ほど経ったところからスタートします。
静良井が全生活記憶健忘症で過去の自分がどんな人物か分からないため、最初は自分の過去を取り戻そうと奔走するミステリ仕立てなストーリーとなっています。

とにかく静良井が記憶を失くし過ぎて、ストーリーよりも彼の心配ばかりしてしまいます。
こんな頻度で失くしていたら日常生活も社会生活も厳しそう。
あまりに記憶を失くし過ぎるのがもどかしく、彼よりも彼の周囲の人(とくに中上)に同情してしまいます。

2巻の過去編中上視点のお話が入ることにより、話がグッと真相に近づきます。
読めば読むほど中上の静良井への気持ちが伝わってきて、その過去が幸せであればあるほど、キラキラと輝いていればいるほど1巻(現在)との対比が辛く悲しい。

とくにグッと来たのは静良井の夢の話。
将来静良井が開きたいと思っていた通りの喫茶店を開いている中上の心情…。
察すれば察するほど切ない。

そして最終3巻で失われていた日記を読み過去を取り戻しますが、どこまでも他人事なのが悲しい。
過去を取り戻しても、記憶は取り戻せない事実が切なくて仕方ありません。

この悲しい流れを食い止めるような中上の過去編を含め初めての涙。
静良井でなくとも心動かされます…。
本当に愚直なまでに静良井に気持ちを向ける中上のひたむきさ…報われて良かった。良かったとしか言いようがありません。

本編最後の最後にタイトル回収が。
静良井のカナリー紹介記事が素敵。
店と店主に対する深い愛情が感じられました。
また記憶を失っても、これを読んで心を取り戻して欲しい。

本編後の短編集もしっかり読みました。
残念ながら記憶を失っていましたが、本編とは違い中上の優しいサポートを受けつつ今の生活を頑張っていました。
ライターの仕事を続けてくれていたのが何気に嬉しかったなぁ。

記憶を失ってもそれを自然と受け止めてくれる中上と、そんな中上をやっぱり好きになる静良井の姿が、今後何度も記憶を失うであろう将来もこのまま同じように過ごすのだろうな、と想像させられます。
本編最後では幸せだけれどどこか切ない気持ちも残る終わりでしたが、この短編のおかげですごく気持ちよく一区切りつけることができました。
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