わが美しきヴィクター【単行本版(電子限定描き下ろし付)】
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わが美しきヴィクター【単行本版(電子限定描き下ろし付)】

鹿島こたる

耽美な主従を愛でる本

ネタバレ
2024年5月29日
このレビューはネタバレを含みます▼ ●最初から最後まで、画面の圧倒的美しさに目が潤う…どころか、潰れてしまいそう。地下闘技場でドロドロだった男を買い取り、名前をつけて、躾ける。犬にでもするような扱いで、財閥の御曹司の戯れか…という物語の始まりですが、惹きつけられてしまいます。バサバサまつげの目力と、彫刻のようなボディ、芸術品の域ですね…
●1話丸々立読みできたのですが、「主従」というよりまだ「犬と飼い主」のよう。でも、獣のように主を求めるヴィクターも、誘いながら「触るな」と言うブラッドも、もうお互いしか見えていないよう。
●ヴィクターは、ブラッドの他には何にも興味を持たず、彼のためだけにメキメキと“人間”になっていきます。ポテンシャル高…!でもブラッド本人の前ではただの“従僕”であり、誘われて“獣”の目に戻るのがいい。ブラッドのどんな暴挙も受け止める器があって、さらにその身体でブラッドを酔わせる。
●ブラッドの方は…これ“ツン”って表現していいのかな……。暴君も暴君ですね…。(超ネタバレします→)ヴィクターが自分を守って目の前からいなくなっても、記憶を無くしてしまっていても、なお暴言。…でもそれが、だんだん彼なりの愛情表現に見えてくるから不思議。「俺のことを忘れたくせに“人間”でいるなんて許さない」(意訳)というセリフは強烈。「お前なんかもう要らない」と言いながら、「俺に永遠に狂え」と言う。めちゃくちゃや(笑)
●記憶のないヴィクターが、それでも潜在的にブラッドの灼けるような視線や肌の冷ややかさ、躾けられた立ち居振る舞いを忘れていないのが良い。そして香り。嗅覚は記憶を呼び覚ますと言いますね。出会ったときと同じように足に手を伸ばし、靴で踏まれ、蘇る記憶。
●最終話から描き下ろしまで読むと、もうブラッドはかわいくも見えてきます。ヴィクターもまぁうまくブラッドを扱えてるというか。ブラッドの御家騒動(特に祖父と形式妻のこと)はもう少し掘り下げて読みたかった気もしますし、ストーリーもあるようなないような…ですが、本作は二人の関係性を深く愛でる一冊かなと思います。
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