エリオットひとりあそび
」のレビュー

エリオットひとりあそび

水樹和佳子

生きることが何処か苦しいあの頃の…

2024年6月8日
前後編2巻で計426頁。全て表題作。調査ではぶ~け1982年10月~83年3月号掲載の筈が、最終話の最終コマには、1970年2月25日との書き込みが。設定上のエンディングの日付と思われる。
ストーリーのほうは1969年アメリカの15歳の少年が主人公。こう来ると多いのが通過儀礼的な初恋…。大人ではないが子どもでもない年頃特有の感性を繊細に描く、というひとつの型は、フィクションでも読み手の遠い記憶や実体験を甘酸っぱく呼び覚ますので、又は、少年の心を垣間見させる女性側からの想像力を掻き立てるので、とてもニーズのあるジャンルと思う。主人公エリオットは、大人ぶるでもなく、実際冷めていて級友達より孤独や複雑な家庭問題を抱え、恋愛実経験値以外はちょっと大人。
舞台を米国に設定してあるのは、ベトナム戦争を扱うから。その他、ヒッピー文化や当時公開された映画幾つかにも触れて、物語の登場人物達は、誰かが誰かのことを好きという関係の中で、ベトナム戦争が影を落とす事からエリオット達も無邪気にはいられない。そういえば米国が舞台の古い少女漫画には、ベトナム戦争のことを扱うものは当時幾つか読んだことがあった。
その辺、若者の日常を黒塗りしかねない勢いで実に時代色を入れ込んでいる。
が、それと同時に、世の対照的ふわふわ少女漫画には無い苦悩もより強くて、表現されるポエム的なコマも、揺れる心情の中での深遠な自己問答。
リアルな人間を描こうとしたせいなのか、水樹先生お得意のファンタジーはほぼない。とはいえ不思議場面はほんの少しある。
踊りのシーンは素敵だ。登場するカメラマンならずとも見入ってしまいそうな絵だった。

脇役なのに、先生達のエピソードはインパクトがあった。しかしこれをエリオットに喋る関係性は、オープンなアメリカでもどうなのかとは思った。
ラウルのエピソードも、エリオットに少なからず影響を与えた大人として、胸にツンと来た。

さて、続編「典型的な悪友」に行こうと思う。
いいねしたユーザ1人
レビューをシェアしよう!