セクシー田中さん
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セクシー田中さん

芦原妃名子

永遠の未完、永遠に残る作品

2024年6月10日
女性向けの作品は久しく読んでいなかったのですが、ニュースで芦原さんに起こった悲劇を知り、作り手がそうまでして守りたかった作品とはどういう物語なのだろう、と興味を持ち、拝読しました(不純な動機ですみません…)
とても面白く、素晴らしい作品でした。永遠に未完の作品となってしまったことが大変悔やまれます。
全てのシーンをとても丁寧に真摯に心を込めて描かれていることが読んでいて伝わってくるので、きっと芦原さんも最後までこの作品を描き切りたいと思っていたはずです。
1巻から読み返しては、ラストには笙野のために踊る田中さんのシーンが絶対あったはず、などと妄想しながら次巻が読めない悲しさを紛らわせています。
テレビ局と出版社が発表した調査報告書には「原作者がドラマ版のキャラブレを気にしていた」旨が記されていましたが、「セクシー田中さん」というこの作品は、各キャラクターがとても重要な役割を担っています。
ひとりひとりは決して明るいとは言い切れない性格であるのに、他の人物と関わり合っていくことでコミカルな面が見えたり、それぞれの価値観が互いに影響を与えあって少しずつ前向きに変化していく様がこの作品の見どころです。だからキャラブレが絶対にあってはならなかったんです。
この人物はこういう家庭で育って、だからこういう価値観があって、だからこういう発言をして…、と全てが必然性で繋がっているので、少しでも異物が入り込むとキャラクターが崩壊してしまうんです。
大切な我が子のようなキャラクターたちが毎回バラバラに切り刻まれている脚本を読まされた芦原さんは、とてもお辛かったろうと思います。
メンタルがボロボロであったはずなのに作品をなんとかここまで描いた芦原さんは最後まで本当の創作者でした。
先生が生み、育て、守ろうとしたこの作品が多くの人に読まれ続けることを願います。
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