黒猫の黄金、狐の夜
」のレビュー

黒猫の黄金、狐の夜

伊達きよ/yoco

黒い夜が明けて黄金の朝日を迎えるまで

ネタバレ
2024年6月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ ケモ耳と尻尾を持つ獣人世界のお話。文明的には20世紀初頭ぐらいのイメージです。幼い子狐を救けるために母狐が犠牲となったことを許せぬ父狐は、村中の人達からお金を集めて子狐を残して姿を消します。幼い時から盗人の子として村人達にこき使われ、一人ぼっちで生きてきた狐獣人のコガネは、川の流れに引っかかっていた小さな黒猫を拾います。目が見えず、記憶も失っている黒猫をクロと名付け、貧しい中コガネは育てる決意をします。素直なクロはとても利発で、学校に行く機会が無くて読み書きもできないコガネは、何とかしてクロの目を治し教育の機会を与えたいと考えるのでした。物語全体を通して自己犠牲が大きなテーマとなっています。父親の罪のせいで搾取され続け、内職であるハンカチの刺繍に自分の尻尾の毛を抜いて刺繍糸として使うコガネは、クロのために自らの身体を試薬の治験に差し出します。後にそれを知ったクロは、ボロボロになったコガネを前に嘆き悲しみます。時折差し挟まれる御伽話のように語られる章が、自己犠牲が相手に与える大きな愛と残酷さとをより深く印象的づけています。二転三転しながら最後は相手も自分も一緒に幸せになろうと手を取り合うまでの深く優しいお話でした。
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