このレビューはネタバレを含みます▼
36歳ひとりぼっちの五映架は、高校時代にひっそりと想っていた初恋相手からアウティングされた苦しい過去があります。その相手はいつも華やかな空気を纏った天花寺晴人で、今やTVで人気のキャスターを務める記者なのでした。今は無きシュエニア国の言語の専門翻訳家である五映は、行くつもりの無かった同窓会の会場近くで20年ぶりに天花寺と再会します。どうしても五映に謝りたいと言う天花寺は、晩秋の冷たい雨に降られながら、一晩も二晩も玄関先で五映を待ち続けます。最初は怒りを露わにしていた五映ですが、たった一度の恋の相手から受けた傷がまだ血を流すほど痛く、そしてやっぱり今でも天花寺を好きなことに気づくのでした。雨の降り続くような人生を送ってきた五映と、その名の如く晴れやかな人生を送ってきた天花寺との対比と共に、五映の扱う極寒のシュエニアの言葉は太陽が根源であること、愛を意味する言葉が無いことが効果的にストーリーを導いてゆきます。自己評価の低い不憫受けは作者さまの得意とされるところで、五映くんもウルウルきゅるるんとその魅力を遺憾なく発揮しています。 もちろん五映くんのお母さんで彼氏な天花寺のスパダリっぷりも素敵でした。一度口にした言葉は取り消せないこと、「好き」と「憎い」の一つの感情の両端を行き来する人間の業が、時に優しい雨と共に描かれます。