柳橋物語
」のレビュー

柳橋物語

山本周五郎

切ないけれど、不朽の名作

ネタバレ
2024年7月18日
このレビューはネタバレを含みます▼ かれこれ、25年程前になりますが、NHKの時代劇ロマンで「柳橋慕情」というタイトルで若村麻由美さん主演でドラマ化されており、この物語を知りました。
主人公の少女、おせんと、彼女に想いを寄せる二人の幼馴染の幸太と庄吉の物語です。弟子入りしている大工の若棟梁として幸太が養子入りすることになって、庄吉は上方へ行く事を決め、おせんにプロポーズします。恐らく、プロポーズされたとき、おせんは、庄吉への気持ちが、同情なのか、愛情なのか、本心が分からなかったのだと思います。けれど、庄吉のプロポーズに応えたおせんは、庄吉が上方へ旅立ったあと、怒涛のように悲劇に見舞われます。
一緒に住んでいるおじいさんの病気、大火事によるおじいさんと幸太の死、記憶喪失、洪水、庄吉が江戸に戻ってから幸太とおせんの仲を疑い、庄吉が別の大工の棟梁の娘と結婚してしまうなど、作者は、なぜ、これほどまでに、おせんを苦しめるのかと読んできて涙が止まらないですが、本当の愛が何なのか、本当に大切な物は何であるのかを、まだ幼い少女だったおせんが、数々の試練を乗り越えた末に、幸福とは言い難いけれど、ようやく幸せを掴み取る物語です。
本当の恋心、真実の愛の重さが切々と伝わってくる、まさに究極の恋物語だといえるでしょう。町人とはいえ、自由な恋愛結婚が許されなかった江戸時代を舞台に、もう一人の主人公ともいえる、幸太がいかにおせんを愛し、命をかけて彼女を守って死んでいったか、その生き様の格好良さと、謝罪をしにきた庄吉に対する、おせんの毅然とした態度が、おせんと幸太の絆の深さを物語っているかのようです。
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