訪問者
」のレビュー

訪問者

萩尾望都

ストーリーと人間心理の描写が見事。

ネタバレ
2024年7月19日
このレビューはネタバレを含みます▼ 「トーマの心臓」のスピンオフ「訪問者」。先の作品では簡単に触れられるだけだったオスカーの過去編。彼の人間形成に大きく影響した父親との関係を描いた作品。オスカーの子供らしい無邪気さは母の死後、急速に失われていった。憎しみはなく愛し合った家族が、愛し方を間違えて全てが狂ってしまった。それでもオスカーは父グスターフを愛し、グスターフもまたオスカーの父だった。2人の間には確かな親子の愛情があった。最後にオスカーとユーリが初めて会う場面が出てきてちょっと嬉しい。
ナチスに支配された頃のパリを描いた「エッグスタンド」。ドイツ人とフランス人とは互いに複雑な感情を抱きつつ、関わりを断つこともできず暮らしていた。若い女性の存在はあれど、溌剌とした明るさよりもけだるげな様子が伝わってきて、背景にある戦争の影が窺える。私が知る限りだが、戦場の様子をほとんど描かずに戦争の非情さと残酷さをここまで見事に描いた漫画はない。悲しいというより、辛い、苦しいストーリー。それでももがくように読まずにはいられない。戦争のさなか、大人たちに人生を狂わされたラウルがどこまでも哀しい。他短編2本も人の心理を見事に描いている。こんな話を生み出せる作者にただただ脱帽である。
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