あで始まって、るで終わる【単行本版】
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あで始まって、るで終わる【単行本版】

円路

小説を映像化した作品を観た気分

ネタバレ
2024年8月14日
このレビューはネタバレを含みます▼ 十年の片想いが実るまでがとても丁寧に描かれていて、心理描写も人物描写も凄く上手いなと思いました。とにかくストーリーがめちゃくちゃいい、映画かドラマみたいでした。胸がいっぱいになった。言葉より大切に、確実に、自分の想いを一冊の本に乗せる。そりゃ、読ませたくないですよね、恥ずかしい。白から一陽への、最高のラブレター。コスモスといいカニといい、不器用可愛い白。一途な一陽とずっとずっと幸せ暮らして欲しい。
なぜ相手を好きになったか、恋愛過程をじっくり、とかそういう描写が特にない方が逆にいい!と思った作品久々です。BLであることを忘れました。単純に作品としていい。読者の想像力を誘ってどこまでも深く潜れる綺麗な沼。見せ方が非常に上手い。人気のある作家さんの恋愛小説を読んでいる気分になりました。そして、それを映像化した作品を見せされている、みたいな。
一陽が白を好きになった理由を言葉や文字ではなくほんの少しの過去の回想で伝えて来るところ。白が一陽に落ちた理由は作中で少しずつ執筆された小説に書かれているのであろうこと、白の心理描写がほとんどないのに気持ちが伝わってくるのが凄い。よく俳優さんが言葉ではなく動きの演技で伝える時があるけど、漫画でも上手いなと言う作家さんはたまに文字じゃなく絵の表現だけで伝えてくる。白の心がちゃんと伝わってきました。想像力で楽しむ漫画でもあるかな。あとコマ割りも上手くて読みやすく、漫画として非常に良質だと感じました。
白は自分にも他人にも関心が薄くてあまり感情も動かないけど、何も感じないわけじゃない。多分、小説でなら自分の感情や感覚を的確に現すことが出来るタイプだから、一陽との関係の中で創り上げた恋愛小説を読んだ人にしか白の想いは分からない、そういう作りになってるんだと思います。ここで好みが分かれるかもしれないです。ハッキリ表現してくれてる方がいい人と、読んで想像して楽しみたい人と。読者側からしたらずっと一陽視点で一陽の気持ちはよく分かるんだけど白が……ってなるけど、逆に分からない方がよかったです。これは白が何を考えているのか明かさないこの路線、大正解でした。素晴らしい一冊を、本当にありがとうございます。実写BLは苦手なんですが、これはぜひ映像化して欲しい作品です。
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