深窓のこいびと【単行本版(シーモア限定描き下ろし付)】
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深窓のこいびと【単行本版(シーモア限定描き下ろし付)】

瀧本羊子

欠陥なき別れなど無い。

ネタバレ
2024年8月18日
このレビューはネタバレを含みます▼ 共通の友人のカフェで、初めて出会った清水と土屋。境界線を引いても入って来る人っていますね。それは単なる好奇心なのか、世間的ポーズか、暇つぶしなのか。その対処として、大人ならば適度な距離を保持すれば済むことと、清水は10才も年下の土屋に大人対応。けれど、会う回数が増える度に、ゆっくりと揺れ始めたと感じる心の余白。実は、清水は、ある日突然に失ってしまった恋人がいました。別れは辛いものですが、病や老いならば、まだいささかの余地が有りましょうが、いきなり失ってしまった状況から抜け出せ無くなってしまった清水。生きてる内に、あれを言えば良かった、これをすれば良かったと、自らで俗世から隔離したのは、己への諌めだったのでしょうか。けれども、愛する人とて何処かで同じ様に幸せを祈っていてくれるものです。風が無けれは風鈴が鳴らない様に、土屋のおかげで美しい音を鳴らし始める清水。どんな不幸の中でも、生きている限りは歩かなければなりません。きっかけを差し出した土屋君の、若い熱情にあっぱれをあげます。ジョンアービングの長い小説を、一人の時を紛らわす為に読んでいる清水の姿を想像したら、悲しくなりました。この先の清水さんは、失う不安を抱えるよりは、思いっきり甘え、生を楽しみ、若さを味わい尽くして行きましょう。それが命ある者の、与えられた役目かと。
フォロワー様から又、素敵な作品に出逢わせて頂きました!有難うございます。
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