ラムスプリンガの情景
」のレビュー

ラムスプリンガの情景

吾妻香夜

胸を打つ作品

ネタバレ
2024年8月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ 物語の冒頭にて「アーミッシュ」という言葉を見たとき、私が一番に思い出したのは10年以上前に、アメリカで起きたアーミッシュを標的とした残忍な銃乱射事件でした。驚くのは事件の悲惨さだけではなく、なんとアーミッシュは事件の犯人を「赦す」とし、罰することを望まなかったのです。私は当時、そのニュースに衝撃を受け、「え!?殺人犯を赦すなんて理解不能だ」と思いました。そして、令和の今…まさか漫画でアーミッシュに触れる日が来るなんて!少し興奮気味で、アーミッシュに関する興味本位と高評価のレビュー見て購入を決意しました。うん。買って良かった!本当に良かった。宗教、恋愛、時代背景、性的マイノリティ、全てバランスよく盛り込まれていて、作者様の教養の深さが窺えます。お気に入りのシーンは沢山ありますが、まず最初に泣けたのは、テオがアーミッシュの村にオズを招き、夜二人きりになったところでテオの懇願によりオズがダンスを披露するシーンです。踊り終えたあとオズが父親に対する思いを吐露し、涙を流す描写は本当に感動的でした。これはテオがオズの機微に初めて触れたシーンでもあったと思います。さらに、テオがオズを抱きしめ「父は怒っていないよ」と慰めます。個人的にこのセリフはキリスト教徒であるテオらしさ(説明が難しいですが、赦しの精神みたいなもの)を感じました。それからもう一つ大好きなシーン。それは物語の終盤、オズが覚悟を決めてテオを村まで迎えに行き、ついに自分の気持ちを伝えるシーンで、オズの表情が4コマに渡って描かれているのですが、あの顔をしかめたような表情が私の心にぶっ刺さりました。きっと、気持ちを伝えるにあたって、不安、勇気、喜び、色んな感情がオズの中で渦巻いたんだろうなぁ。と、私はそう思いました。最後に二人は結ばれますが、おおうでを振って喜ぶ気持ちにはなれず、どこか哀愁の漂う奥深い作品でした。テオはこれからどんな人たちと出会い、何を知って何を思うのか、オズは自分との葛藤を乗り越えてまた舞台で日の目を浴びることは出来るのか…。こんなふうに、読み終えた後も二人のことを沢山考えてしまいました。とっても素敵な漫画に出会えました。作者様ありがとう!!!親愛なるジーンもすごく良かったです。
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