スモークブルーの雨のち晴れ
」のレビュー

スモークブルーの雨のち晴れ

波真田かもめ

いろんな記憶と感情がわきあがる

ネタバレ
2024年8月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ あるレビューで、作者の描く顔が好きじゃなくて未読だったが、読んでみたら話も絵もすごく好きになったと書かれているのを見て、私もこの作者の描く顔の感じが好みではなかったためこのレビューに親近感がわき、逆に読んでみたいと思って手に取った作品。
最新刊五巻まで読んだ。
顔はやはりそんなに好みではないけれど、絵柄自体はお話の雰囲気にとてもあっていて、情緒や湿度を感じるすてきな絵だと思った。
そして何よりよいのがストーリー。何気ないセリフ、一コマにぐっときて、自分の心の一番やわらかな部分にある、いろんな記憶や感情がよびおこされた気がした。
たとえば、ずっと昔、大して努力もせずになんとなくあきらめた夢のこと。
ただ、目の前のことをこなしていくうちに過ぎてしまう日々。
他の多くの「普通の娘たち」のようには、私がなれなかったことに対する両親への罪悪感みたいなものとか、そして私の生き方を否定したりせず、ただ味方でいてくれる両親のこと。きっと母は、たくさんのことを、私には言わずにいてくれているんだろう。二巻P72のあたりは見るたび泣きたくなる。
昔より何となく掃除が行き届かなくなっている実家の居間や台所。二巻P46のあたりは、自分の実家を眺めているような気分になった。
自分の母の曲がった腰、だんだん痩せていく父、なんて情景がじわーっと思い起こされて、泣いてしまってることもあった。
五巻の三上さんと久慈のエピソードもグサッと来た。人を思い慕う気持ちと同時に自分の中にある、「でもそこまでは背負いきれないんです」という薄情さ。だめな自分でごめんなさい。謝りたい気持ちになった。
五巻P147最後のコマで吾妻のいったセリフはほんとよくわかる感情で、何かから自由になることは、孤独をともなうことなのかなと改めて思ったり。
五巻の「おにぎり飽きた」もめちゃ共感!お昼は節約と手抜きでワンパターン化するよね、そんで嫌になるけど面倒で結局またおにぎるという(笑)

こんな風に様々なエピソードに心揺さぶられながら、久慈と吾妻の関係が静かに、確実に育まれていく様子も味わえて、大袈裟な愛の言葉が綴られないところもよかった。濡れ場もほどよい余白と艶のあるいい濡れ場だった。
あと、翻訳という仕事も興味深く描かれていて、なるほどと思わされることが多かった。合間に何げなく挟み込まれている「翻訳小言」もおもしろかった。
6巻も楽しみ!!
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