みにくい獣の愛しい伴侶
」のレビュー

みにくい獣の愛しい伴侶

春田梨野/兼守美行

『悲しき魔術師と愛しい人狼』

ネタバレ
2024年8月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ 琥珀色の魔眼を持つエルセ・イスベルトは、其の比類なき美しさ故に魔術師としての才よりも社交を望まれていますが、エルセ自身はつつがなく魔術師としての道を送りたいと思っていました。
しかし、エルセの年の離れた兄ユリス・レイウ”ィルは、絶対的な支配者の如くエルセの全ての考えと行動を自らの思い通りにしようとします。尤も、ユリスは両親から十七歳の歳迄酷い扱いを受けていたので、エルセを痛みと恐怖で支配しようとするまでに心が捻じれてしまったのでしょう。
ユリスも大層気の毒な人だったのですが、話が進んでいくにつれ、体調不良とか別用とか瞳の奥に昏い火が燻っているとか魔術師が数人行方不明とか彼に対する疑惑を読みながら覚えてしまうのです。
彼の暗さを忘れさせてくれる様に、エルセとラニの何気ない日常と心のふれあいに限りなく愛おしさを感じます。
エルセは誰かを自分自身よりも深く愛したかったのです。その為なら自分がこの世から存在しなくなっていいと思うほどに。
そして、其の想い故にエルセは魔獣などという存在に落ちてしまうことがなかったのでしょう。
至上の愛というものをエルセの中に見出して、ユリスはエルセの幸せを願って、無に還ることを選んだのだと思っています。散々酷いことをしてきたのに、エルセが自分を赦してくれていることを、変わらずに愛してくれていることを感じたのでしょう。
高尚な恋愛小説として読んでみたいので、できればラブシーンはキスシーン位で、後は二人の秘密にしておいてくれると読後感が佳くなります。
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