海街diary
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海街diary

吉田秋生

いい!吉田秋生先生のまごうことなき代表作

ネタバレ
2024年8月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ すごくいい!とても品が良くて爽やか読了感は、海からの頬を撫でる風のようでもあるし、山からのすがすがしい緑の風のようでもある。物語は決して軽い設定ではない。子ども時代を大人の身勝手で奪われた女の子(達)がいる。泣き方笑い方を忘れていた小さな女の子は、突如「来ない?」との声に乗った。その選択の肯定、さっぱりした4姉妹間には、女同士特有の不穏さを全然持たせずに、新たな家族形成が静かに進む。お姉さん三人三様働いていて別々に逞しさがあるのがいい。エベレストを渡って越える鶴の話がいい。最近読んだ神坂先生の「シルクロード」からの神の住む白い山、ヒマラヤ山脈に通じてるモチーフ登場も気に入った。藤沢在住の頃もっと地元を知っておくべきだったと深く後悔した。シラスも鯵フライも美味しそうでそそられた。鎌倉に移り住んできた人達とも繋がったり、鎌倉イメージを裏切らない地元のコミュニティの狭さだったりが、登場人物達の出会いと別れを要所で締めている。各人には其々事情があるのに連携を可能とし人の人生の局面に立ち会ってる。なのに、会話が自然なのでわざとらしい作り話臭が無い。ローカル色の深みが実在の地名を使って見事に随所に表れていて、街の景色が鮮やかに切り取られている。何回も出てくる海、海岸が、懐かしいような気持ちまでをも呼びこんでくるほど。
吉田先生作品は衝撃の大きさがあることが多いと感じてるが、本作は、話の中にそれなりにある事件が、意外にもマイルドな印象。それは多分、淡々とした日常を垣間見せ彼らの丁寧な暮らしぶりが描きこまれてきたからこその着地であろうかと。それなのに途中些かもダレない驚くべき手腕、さすがとしかいいようがない。
泣けるところも少なからずありながら、笑いを忘れないストーリー、手塚治虫先生の有名なおとぼけ絵も複数箇所に!。いい台詞が多くて各キャラの似てるところ似てないところの描き分けにも活かされて、本当に巧み。
アライは最後まで(最後になって一部だけ露出)全身像での姿を出させないのも戦略的ですごい。本編完結で、すずを乗せた江ノ電の去る後ろ姿がずっと目に残り、実物のことを思い出してしょうがない。
帰ってくる場所がある、の含意あっての「行ってくる」が、しみじみ良かった。
そのうち「ラヴァーズ・キス」も再読しようかな、でも、どうしよっかな。
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