夜明けのポラリス
」のレビュー

夜明けのポラリス

嘉島ちあき

「夜明けのポラリス」以外の名はつけられず

2024年9月17日
完結おめでとうございます。正直2巻を終えた時、これはもうまとめ上げるのが難しいのでは…と思う締め方でしたので、最終巻である3巻を読んだ時は心に沁みました。作りとしては起承転結、出会い・影・過去・夜明けの4つの構成から出来ていると思います。それぞれに惹きつける展開があり、同じ物語にあって、醸し出す雰囲気が異なります。また題名からして、完結は決まっていたように思いますから、逆に言えば、前半の明るい雰囲気はとても計算され、コントロールされて描かれたものとも言えるのではないでしょうか。2巻の終わりについては、「はあ?そんなに時を経たせる?由良、ヘラが過ぎん?」と感じてしまいましたが、3巻を読んで納得、その時間は由良でなく、コウセイに必須の時間だったように感じます。わがまま放題だったコウセイがここまで由良を労り、癒し、寄り添うとは、正直驚きでもありましたが、そうでなければ回収の困難な物語でもあったと思います。時がどうしようもなく流れていくこと、その中で生きていかなくてはいけないこと、死ぬこと、変わっていくこと、失うこと、心にせめてとどめたいこと、そしてその時の中で新しい出会いも訪れること。先生と登場人物たちの回答が描かれた物語。成長したコウセイには確かに子どもだった頃の面影があり、別人ではなく、正確に成長したその人でした。また柊真については、幼少期から始まり、真白や由良、家族や母に対する複雑ない想いを持ちながらも、本編でそれを出しすぎることなく、とことん少ないセリフと表情に抑えられていました。それ故に本編が暴走することなく、またそれが下地としてこの物語に厚みを作っていたように感じます。この物語に生を受けた登場人物たちが、読み手の心に一瞬でも何かを刺したなら、きっとそれで良い、つまりはそれが生きたということなんだという、全ての人に向けられたメッセージでしたね。
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