レンタルタマちゃん
」のレビュー

レンタルタマちゃん

らくたしょうこ

貧困から連鎖する不幸と人間の根源的な強さ

ネタバレ
2024年9月18日
このレビューはネタバレを含みます▼ 社会保障が無くなり、弱者が見捨てられるようになった貧困地区で公務員として働く矢澤啓介は、ある日猫のレンタルを申し込みます。懐っこい猫ちゃんを待っていると、やって来たのは猫耳と尻尾を付けた人間のオスでした。見るからに怪しげな男が連れて来たタマは人間ですが、美形で、完全にネコになり切っているので、矢澤も割り切ってネコのつもりで一緒に遊ぶことにします。二人で思い切り遊ぶと楽しくて、矢澤は時に死にも立ち会わなければならないストレスが癒やされるのでした。ある日、雨でびしょ濡れになったタマを温めようとした矢澤は、タマの身体中に残る傷跡や痣に驚きます。そしてタマが少しでも生きやすいようにと願うのでした。矢澤の背負ったもの、タマの背負ったもの、それぞれを忘れて無心に遊ぶひと時のタマの表情がキラキラととても愛らしいです。その後のタマの行動が、いかにもネコらしくて、その幼さと愚かさと健気さに泣きました。猫耳美青年のレンタルという軽げな表面下に貧困の連鎖とやるせなさ、移りゆく変化を嘆く虚しさがしっかりと描かれています。エロ無しのいわゆる死ネタですが、ファンタジックなラストには人が本来持つ強かさと善性を感じました。BLならではの切なさと透明感が最高純度の作品です。心身ともに余裕のある時に読むのをお勧めします。
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