彼方の君の手
」のレビュー

彼方の君の手

嘉二維ふく/綿レイニ

忘れていた夏休みの思い出と再び出逢う

ネタバレ
2024年11月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ 6年ぶりに母方の田舎にやって来た浪人生の雄大は、小学生の頃から来るたびに一緒に遊んでいた同い年の駿と再会します。昔と変わらず明るく活発な駿は喜びつつも、なぜ6年間も来なかったのかと雄大を責めます。二人は最後に会った中学1年生の夏、初めてのキスをしたのでした。思い返せばそれがきっかけで自分のセクシュアリティを不安に思うようになった雄大は受験にも失敗し、色んなことをリセットしようとこの町を訪れたのでした。ところが、駿のことを「おててのおばけ」と言う少女、老婆の不気味な警告、町に伝わる神隠しとそれにまつわる男同士の駆け落ちの話……緑濃い田舎の降るような蝉時雨の中、不穏な出来事が続きます。そしてなぜか忘れていた6年前の駿との記憶が戻ってきた時、雄大は駿の存在に疑問を持つのでした。夏休みに訪れる鄙びた田舎や寂れた神社というホラーにうってつけの舞台設定に加えて、初っ端19歳にして捕虫網と虫籠を持って登場する駿の違和感が強烈で、グイグイとお話に引き込まれてゆきます。ネタバレ厳禁ですが、ホラーではなくファンタジーです。背景の神社の境内や田舎の日本家屋、蛾や蜘蛛など細かいところまでとても丁寧に描かれていて読み応えがありました。エロなしのキラキラした一夏の純愛です。
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