巻き添えで異世界に喚び出されたので、世界観無視して和菓子作ります【単話】
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巻き添えで異世界に喚び出されたので、世界観無視して和菓子作ります【単話】

和泉杏花/天乃こと

災害としての異世界召喚、聖女という徴兵

ネタバレ
2024年11月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 長年の夢の実現を前に突然異世界に召喚され、現実として受け入れられないさゆりの姿に、かつて見た被災者の方の姿が重なります。「目の前の光景が現実と思えなくて」「夢を見ているみたいで」そう言って茫然とし、泣くことさえできずにいる女性の姿を思い出しました。夢の実現のために重ねた努力も苦労も無に帰すかのごとく、突然すべてを失うことはまるで災害のようで、そこにリアリティーを感じてしまいます。
やがて現実であることを認識し、さゆりはすべてを失ったことを悟ります。しかし、そうした不条理にあっても職人の厳しい修行の中で努力し、築き上げたものが自分の中に確かにあることに気づくのです。誰によっても何によっても奪うことのできないものがあることに気づいた彼女は再び夢に向けて立ち上がります。その姿に人としての強さとは何か、ひとが拠って立つところのものとは何か、困難に直面したときに立ち直るためのヒントを得られるかもしれません。
また、小豆は古来より邪気を払うとされ、漢方でも用いられてきたことや、白いんげん豆の効能などを考えると内側からの浄化を担う聖女のモチーフとして和菓子は相応しいもののように思えます。
一方、国家のためにといった大義名分のもと、何人も個の権利を踏みにじられてはならず、各々の幸福は尊重されねばならない。そんな基本的なことさえ見失われてしまう状況下でもユリウスはそのことにきちんと気づいているようです。
もう一人の聖女リオはまだ子供で現実を受け止めていないのか夢の中のようにはしゃぎ、花を咲かせていきます。こうした反応にもまたひとつのリアリティーが感じられます。やがて、夢から覚めていくのでしょうが…。
外界と内界それぞれの浄化を担わされる、一見対照的なしかし対称として召喚されたであろう二人の女性の今後がとても興味深いです。美しく、清潔な描線は和菓子を扱う作品にぴったりです。できれば原作でも読みたいです。
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