めまい
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めまい

田中鈴木

蜃気楼の先に見えるもの

ネタバレ
2024年12月10日
このレビューはネタバレを含みます▼ 小学生の頃、山にぐるりと囲まれた町で生まれ育った自分には、山の先にまだ世界が続いているなんて思ってもいなかった。世界の広さを知らなかった頃の自分は怖い物知らずで、無邪気に笑っていられたのを、今では記憶とも言えないくらいの朧げな手触りだけが残ってる。だからなのか、哲雄が幸太郎を選んだ気持が分かるような気がした。
結末を知ると、あの逃避行は破滅へ向かうものではなかったし、哲雄が現実を迎え入れるまでの猶予、最後の青春を一番自分が輝いていた頃を知ってる友達と味わうための時間に私は思えた。
父親殺しが少年時代からの脱却的な表現がよくあるけど、強制的に親離れをさせられた哲雄。最後の寄す処が幸太郎との時間。しかしもう戻れない世界に哲雄は行ってしまったのかもしれない。追い打ちが幸太郎が犯した罪だった。両親のことも含めて自分が手を下したものではないからこそ、コントロールの利かない同仕様もない絶望に、哲雄は自分だけが抱えて消え去ろうとした。が、それも叶わない。
幸太郎よ、お前はどんな未来を生きるんだ。お前がもう戻れない過去はどんな景色か。蜃気楼のように見えるものはないか?
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