有賀リエ連作集 工場夜景
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有賀リエ連作集 工場夜景

有賀リエ

真昼には見えないもの

ネタバレ
2024年12月28日
このレビューはネタバレを含みます▼ ひと昔前は「犬に咬まれたと思って」など言われた性犯罪。もうそんな事は通用しないのに男はいとも簡単に自分勝手な考えで加害者側になるな、と昨今のニュースで思う。碧の父親はその後何を思っただろうか。平凡なサラリーマンの父親は序盤、女性がバリバリ活躍する時代と言いながら妻を揶揄する。逮捕されるまでの日常を過ごしている間、貴臣の母親の事を考えたことはあったのか。何もかも失くして家族の人生まで困難にしたことをどう思うのか。碧と貴臣、加害者家族と被害者家族という立場に一変し、昨日までの夢や淡い恋心、青春は真っ暗闇に消えてしまう。残酷で無情で悲しい。「パーフェクトワールド」で社会派として知られた作者だけど、やはりさすがです。ラブストーリーの要素で描きつつ、客観的な視点を失うことなく、興味本位や過剰に煽ることなく、家族や周囲の視点や思いなど描いていないところまで考えさせられる。これが青年マンガのジャンルというのも意味があるかもしれません。工場夜景のむき出しの美しさに読者は何を見るのか。余談ですが昔の某ミステリー漫画の工場夜景が星座に見えるというのを思いだしました。見たいように人は見るけれど、昼と夜で見え方はこんなにも違う。碧の涙ながらの願いは難しいからこそかなってほしいと思いました。
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