このレビューはネタバレを含みます▼
パブリックスクールだのギムナジウムだのとは縁遠い世界で生きてきた、しがないレビュアーのこのわたしと…
特権学校でしのぎを削り常に周りと比較され、おのれの価値を数字で決めつけられるような厳しき競争社会を生き抜くノアとの共通点を唯一挙げるとするならば…
「劣等感」、これに尽きる。
この病巣を解消しない限り天才肌のカイに惚れちまったノアはこれからもきっと八つ当たりをしたくなったり嫉妬の思いが渦巻くだろうけれど、どうかその凶器は引っ込めてほしい…そう、一方的に感情移入せずにはいられない遠くて近い作品だった。
怪我をした小鳥をかすがいに、今にも恋が始まりそうな甘酸っぱい2人の距離感。カイノアの顔面偏差値と佇まいがイケメンすぎて終始ドキドキさせられては見ていられなくなり、ページを閉じてはまた開き…お遊びのような接触でさえキャッといたたまれなくなってはまた閉じて…ようやく2人を直視できるようになった頃にノアがカイを避け始めたものだから、気持ちはわかるけどそうじゃないのよ〜〜お願いノア、正気に戻って〜〜!!と藁にもすがる思いでページをめくった。
カイだって色々と不本意で、ただそこに立っているだけで好奇の目を向けられ噂をされ嫉妬され…うんざりしているところにようやくノアという拠り所を見つけたのに、すげない態度で避けられて…
物語に抑揚をつけるための薄っぺらなすれ違いは食傷気味でしたが、思わず手に汗握っちゃうほどのヒリヒリ感を味わえたのは久しぶりでした。
なぜならこの2人の場合、それぞれが自分の感情を自己解決できなければ関係修復は不可能で、誤解が解ければオールオッケーモアハッピーというわけにはいかないのだから…
それもね、小鳥をやわらかく握り込むノアの手元を見ただけで「やさしい子なんだな」と察することができる表現力と、小鳥をカイの指からノアの指へたどたどしく橋渡しする難しい場面をそつなく描ききる先生の画力がなければこんなに惹き込まれたりしないですよ…
もうつらい(いい意味で)。
素晴らしい作品をまた見つけてしまって、作者買いと続編を追いかけなければならないエンドレスが。