手中に落としていいですか【単行本版】
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手中に落としていいですか【単行本版】

くれの又秋

溺愛の定義を変えた神BL

ネタバレ
2025年1月16日
このレビューはネタバレを含みます▼ 最新刊4巻まで既読(電子書籍に加えて、紙を購入したほど大好き)
人生で一番好き&一番読み返しているBL作品。語りたいことはそれこそ御子柴先生を語る新田君ばりにあるけれど…とにかく「16話の溺愛がクレイジーでエグい」の一言。これは単話買いではなく、全巻通して読まないと伝わらない。16話は「互いの手中に落ち合ってからの初めて性行為回」なのだが、派手さでいえば1巻の巳鹿島さんが一方的に快楽堕ちさせようとしていた行為の方がインパクトがある。それに比べると16話はまるで「溺愛されている処女新婦のための神聖な初夜」のよう。派手で激しい動作もなければ、喘ぎも新田君が堪えきれずに漏れた小さな吹き出しのみ(これ最高!)。心情も新田君側の最低限しかなく、非常にシンプルで〈会話と場面描写〉から察するしかない。しかし、読み進める内に16話は一つひとつがリプレイなのでは?と気付いて、確かめるべく何度も全巻を読み返した。「やっぱり何気ないセリフや場面描写をなぞっている」と確信して、見事な伏線回収ぶりにゾクゾクした。手中に落ちる前(1〜2巻)/落ちた後(16話)の対比を見事に描写している16話は本当にクレイジーでエグい。

恥じらいながらも精一杯に自己開示&受容しようとする新田君と、その新田君を受け止めつつ翻弄され、ただただ溺愛する巳鹿島さん。

外伝を読むと巳鹿島さんは観察眼と臨機応変さ、そしてテクニックの怪物だとわかるので、16話では派手な描写はないものの、巳鹿島さんは本当に新田君の一つひとつの反応を確かめながら、職人技の確実なテクニックを駆使して「絶対に大事にするし甘やかす(1巻でやらかしてる反省もある)」と溺愛ぶりが伝わる。そして、自分の快楽は二の次なのだろうけど、所々で描写されるトーン貼りの巳鹿島さんの表情と発汗ぶりから察するに、新田君の無自覚な煽りに対して必死に我慢してる様が堪らない(今度は巳鹿島主観回が読みたい!)

私の中で溺愛の定義が「手中の16話」になってから、BLTL問わず、いくら主人公達が愛の言葉を交わしていても、初回での中途半端な前/戯と激しい行為描写にときめかなくなった。「それは溺愛なのか?攻めの自己満行為では?我慢しろ。巳鹿島さんを見習え」とモヤモヤするようにり、中途半端な他作品を読んだ後はモヤモヤを浄化するために16話を読んでいる。もはやリセットするための精神安定剤だ。
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