こたえてマイ・ドリフター
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こたえてマイ・ドリフター

大島かもめ

心にこびりついて剥がれない一作

ネタバレ
2025年1月25日
このレビューはネタバレを含みます▼ 時代物の映画のように吸引力のある、清濁併せ持った傑作です。
1920年代アメリカ。ジャズなどアメリカに代表される文化が花開き社会が大きく変容する傍ら大量生産大量消費志向が確立し、後に“繁栄と狂乱の20年代“と語り継がれる特異な時代をベースに、この作品は成り立っている。
この時代を勢いのある濁流に例えるなら、アッパーミドルなエリオットと環境に恵まれず日陰の道を生きてきたリンチェは、大河の一滴どころか水の分子くらいちっぽけな存在でしかない。苛烈な人種差別に薬物汚染などは当たり前、白人至上主義が横行するアメリカにあってよくぞエリオットはアジアンビューティなリンチェを選び、リンチェも曇りなき眼でエリオットを受け入れたよな…それだけでも大優勝だし信用に値する男たちであります。
けれども時代は容赦せず、大波となり幾度となく2人を試す…が、「一緒にいたい」というささやかな、本当にささやかな願いさえ叶わないかもしれない絶望を、互いを導に耐え抜いた。人生をかなぐり捨てエリオットをただ想うリンチェと、その手がどんなに汚れようと最後までリンチェを手離さなかったエリオットの覚悟にはしとどに泣かされました。
要領よく世渡りしているように見えて、2人とも真面目でイイ子過ぎるんだよ…めんどうなことは全部時代のせいにして、もっと気楽に生きてほしかったなあ。
タイトルにある根無草、放浪者という意味の「ドリフター」は、リンチェのことかな。
気持ちに応えて…と、エリオットがリンチェに問いかけているのだろうか。

ちなみに切ない濡れ場や修正は神レベルです。
まとわりつく不穏を忘れ去ろうとベッドに傾れ込む2人のからみは、儚くも美しい。
大島先生海王社、さま様でございます。
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