巣箱の王子様
」のレビュー

巣箱の王子様

秋平しろ

社会が考える幸せ≠個人の幸せ

ネタバレ
2025年1月29日
このレビューはネタバレを含みます▼ 細いペンですっきり描いたような美形が好きで購入してみました。同性愛者という秘密を持つ青柳と、青柳がおとぎの国の王子様と憧れる浅桐部長の相互救済ストーリーです。

ゴミ屋敷のドキュメンタリーを見て、心の空洞を埋める為に溜め込まざるを得ない人々がいるんだなと思ったことを思い出しました。
だらしないと責める人もいるだろうに、部長を慮れる青柳、推せる!…と思ったのですが。親孝行の為に、結婚と孫の顔見せまで視野に入れていることが判明し、真顔になりました。青柳よ、君がそんな人身御供みたいな真似に無頓着なやつだとは思わなかった…。真面目で優しくて可愛いんですけどね、女性は男性を一人前にする為の存在ではありませんから。

結婚と子供の誕生を経て、初めて一人前として認められるような社会からの無言の圧力という背景は、部長の秘密の本丸にも共通するように思います。
現代人は、生産性と少子化対策の為だけに存在する訳じゃないのに、ロマンティックラブイデオロギーから外れた人間の居場所は用意されない世界なんだよな〜と遠い目になりました。

一緒に過ごす中で、部長の気持ちも段々青柳に傾いていき、お酒の力でセッ久には至るのですが、そこからのすれ違いがもどかしくてもどかしくて…。
しかし、着地点からは男らしさという呪いからの解放を感じられたので、晴れやかな読後感がありました。お互いがお互いの居場所になるという結末に救われます。
自分の幸せが誰かの幸せでもある人生が最良だと、誰もが言える社会が良いなと思う作品でした。

最後に一点だけ。山田部長、それはカミングアウトの強要に当たるのでは?いい人なんですけどね、いい人なんだけど…。
いいねしたユーザ1人
レビューをシェアしよう!