BOYS OF THE DEAD
」のレビュー

BOYS OF THE DEAD

富田童子

異次元の怪作

2025年2月18日
信じられますか…これがBLだなんて。
手加減やデフォルメなどは一切されていない、ゾンビにまつわるオムニバス(なんだけど全部つながってる)。先生のたしかな力量に裏打ちされた生々しいゾンBLに、なぜこんなにも強く惹かれるのか。
まずは郊外にポツンと佇む深夜のダイナーに店主がひとり、奇妙な客の話を聞くところで物語は幕を開ける。1話目のアメリカナイズな話の運び方からは若干80年代ホラー映画臭が漂うが、ゾンビをテーマにしている時点でそりゃ明るいお話ではないよね。
掘り下げると無限に深いのに、一見するとセッ クス&バイオレンス&ストックホルム症候群。道徳倫理公序良俗なんて野暮なことは言いなさんな、周りを見渡せば血で血を洗うゾンビワールドが広がっていて、誰も彼もがいつ噛みつかれ変異するかわからない極限状態なのだから…
ちなみにヤンチャな感じの表紙の人物は、2話に登場するライナス&コナー。この2人のエピソードも狂おしいほどに切なかった…死にゆくコナーを愛するライナスにとってゾンビ化は願ってもない魔法のようなもので、死肉をすすりながらも幸せそうに暮らす本人たちを見ていると、なにが正解かわからなくなってくる…そういったモヤモヤを富田先生はキャラを通じ「善悪の彼岸(byニーチェ)」と表現していた。善も悪も超えたカオスの中で、拠り所もなしに自律できる自信がない…個人的に気になるのは1、2話に登場するアダムの心情。初登場時ウィリアムに相棒の面影を重ねていたけれど、それは恨んでいるからなのか、未練タラタラだからなのか…
巻末、愛おしげに掲載されている没ネタを使っての続編はなかなか難しいだろうな…すんごく面白そうなネタばかりなので、採算度外視(失礼)で出版してくれたりしないかな。
※他の方のレビューで知ったコンテスト受賞作「うつくしいものたち(無料公開)」も拝読しました。すでに異彩を放っている…
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