うそつきあくま
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うそつきあくま

雁須磨子

人物造形がすごい、ドラマに納得感しかない

2025年3月2日
すごく引き込まれました。雁須磨子先生は、文章を完全にしないで、断片をつないでいくような言葉の使い方が、リアリズムというか独特で面白いな、というところが、これまで印象的に思っていました。今回の作品では、人物の説得力に圧倒されました。もっと言うと、男と男の、しかも同じ職業のふたり、プライドのかかった競い合いが水面下でずっと進行していて、でも、かたや性愛も含む親密な関係性で、どうしても上下関係、支配被支配の関係から降りることを求めてくる力が働いている。その緊張感あるドラマがたまりませんでした。宇郷という男、彼は傍若無人で、それでいて怖がりで、すぐホモソーシャルな世界の中での支配に逃げる。言ってみれば、サブカルマッチョ野郎です。現実では、ここに女性嫌悪が入ってくるのが常だと思います。そういう、ある意味きわめて男らしい男が、同じ男との関係性を通じて変わっていく。それがエロティックでもあり、感動的でもありました。読む前には分からなかった、でもなぜか「ああ、私はこれが読みたかったんだ」という、自分のなかにこれまでもあった欲望を形として発見するような感覚がありました。BLで自分が読みたいものは、これなんだなと納得しました。
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