グラン・ギニョール
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グラン・ギニョール

本仁戻

愚かで暇な人々の、魅力的な「見せもの」

ネタバレ
2025年4月13日
このレビューはネタバレを含みます▼ あー、なんて陳腐で愚かな人々なんだ!
人のやってることのほとんどは、所詮ただの「見せもの」。愚かな見せものが、精緻で美しい作画で繰り広げられる、なんとも魅力的な作品。

以下魅力的な陳腐ポイント
●陳腐その1、ぼんくら子爵: 誰のことも、自分のことも愛していないから、ひたすら浪費し傷つける、あー、なんてかわいそう。
●陳腐その2、わかりやすすぎる使用人たち: どんなに馬鹿にした相手でも、やりたい欲望にはかなわない。あー、なんて正直で身勝手な人たち。
●陳腐その3、欲求不満の奥方: 不自由な、囚われのカゴの鳥。あー、とにかくがんばれー。
●陳腐その4、裕福で暇な友人たち: 気になるのはおいしそうな子爵と執事のことばかり。他にやることないんか?
●コンラート: ある意味最も何の色もない人。東の果てまでぼんくらについてきちゃったなんて、どうかしちゃってたんだね。そういう時もあるよね。

こんな人々の醜態が、緻密な作画とのマリアージュで、芳しい香りを放ちながら展開されるすばらしさよ。作者様ありがとう。

私は断言する。子爵とコンラートの間にあるのは愛ではないと。
これはただの欲望だ。
美しいものを、自分だけのものにしたい。この満たされない心の穴を埋めたい。でもできないからこそさらに欲しくなるジレンマ。願いが叶った時が二人の頂点、あとは色褪せる一方だろう。
指先だけの触れ合いで表現された二人の抑圧された欲望は、艶かしくてよかった。忍耐さえも、愛というより退屈をまぎらわすプレイの一環に見えた。

私は一話目のロマンティックが特に好き。全然ロマンティックじゃないところが。
堕ちた先の最後の選択がそれだなんて、なんてありきたりで、なんて浅はか。

この作品、起きてる事、やってることがいろいろひどい割に暗くないというか、根本にあるのはコメディーというか、どこか冷めた目線で人物たちが書かれている感じがして、そのおかげで私は楽しく読めた。ただ、あまり興奮はしなくて、それで★3な感じ。でもこういう一歩ひいた感じの、通常の一途とか健気とは違う路線をいく作品好きなので、本仁先生また何か書いてほしいなー。
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