このレビューはネタバレを含みます▼
本郷先生の初期作品。ものすごくだいすきです。
読み始めのカラーページ、水辺を散策する幼きクレア?にまずは心を奪われます。
クレア…隔世遺伝により吸血鬼化した異質な個体。純血主義であり秘密主義な吸血鬼の由縁にあえて触れないことでその歴史は古いというニュアンスが自然な形で伝わってくる。漠然とした描写から導き出されるのは、彼らが生きることに疲れるほどの長寿であること、組織化されていつつも順応に優れた種族であること。それでもやはり日光は天敵で食事(血)もそれなりに摂らなければならず、複数の薬を常用し副作用に苦しまなければならない。
そのような不都合に折り合いをつけながら20年にも渡り親交を続けてきたクレアと人間のロカ(芦花)…この作品はブロマンスな2人の最後の交流を綴った、どこか悲しい物語。
短命なロカに合わせてしれっと図太く暮らせばいいじゃない、と、つい話を丸く収めたくなるのですが…考えてみればたしかにそうだ…もし容姿に変化の見られない隣人の噂が出回ったならクレアたち吸血鬼はただちにコミュニティから排除されるし、クレアを愛するあまりにロカは危険を冒し続けることになる。そんな不始末は保守的な“上層部“が許さない。だからほどほどの距離でロカを見守っていた…それはわかるのですが、そのやさしさがあまりにも吸血鬼的で、儚くて…瞬く間に寿命を終える人間のロカにとって、お互いのために離れることを選んだクレアの判断は薄情にも不可解にも受け取れたことだろう。それならば…と、自分なりのやり方で想いを繋ごうと奔走するロカの愛が痛くて深くてたまらない。
それから『星月夜 byゴッホ』のような満天の星空が見開きいっぱいに散りばめられた後、物語は現代から未来に移り変わる。
そこにロカは居ないのだけれど、クレアが彼の作品を手にするたびに2人で暮らしたあの川沿いのアパートが懐かしく思い出され、ロカとの日々も蘇るんだ…と深読みした瞬間壮大ないろいろが心のなかを駆けめぐり、涙が溢れて止まりませんでした。
なりたくて吸血鬼になったのではない死にたがりのクレアも、これで生きるしかなくなってしまったね…
歴史に名を残したい気持ちが理解できたような気がします。
誰かが覚えているかぎり、その人はいつまでもそこに存在し続けるのだから。