てだれもんら
」のレビュー

てだれもんら

中野シズカ

読者だけがいろいろ知っている

ネタバレ
2025年6月6日
このレビューはネタバレを含みます▼ 最初グルメ系のほっこりBLなのかなと読み進めたらまったく違った。引き込まれる要素がたくさんあるのだけれど、なかでもキャラクター同士の気持ちなり情報なりがお互いに共有されていない、つまり言葉で伝えられていないことがたくさんあるところがいいと思った。そうすると読者だけが知っているので、こちらには緊張感と焦れったさがあって、お話の世界へ読み手をコミットさせる力を感じた(ああなってほしい、こうなってほしい、言えばいいのにetc.)。その読み心地がとてもよかった。また、登場人物がそれぞれに自らにリミッターをかけていて、その理性による制限と、相反して溢れそうになる気持ちや衝動の様子も、読んでいてエロティックで魅力的だった。もうひとつ個人的に印象に残ったのは、相手の世話を焼くというか、気遣う場面が多々出てくるところ。そうやって相手の懐にするりと入り込んでいる描写が(実際の男性にはほとんど見られないものに私にとっては思えるため)妙に考えさせられるなと思いました。
(あらすじ)片方は腕のいい板前。もう片方は、特殊な庭師で、庭についた物の怪を祓い清める仕事をしている。板前は庭師に惚れている。料理を作り週末の時間を一緒にしはするが関係をはっきりさせることには踏み出していない。実は過去にある料亭でふたりは交錯していた。庭師による祓い清めがうまくいかず、そのせいなのか火事になり、当時そこに勤めていた板前は火傷を負った。2人が会ったことがあることは板前の方は分かっていない。どうやら庭師に忘れさせられているようだが、それでも板前は悪夢を見たり、事件のことで現在も苦しさがある。
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