恋から始めてくれないか?
」のレビュー

恋から始めてくれないか?

栗之丸源

推し活と初恋

ネタバレ
2025年6月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ 作家様買いです。栗之丸先生作品=実直かつ良識的な人物が出てくる確率が高い説(私調べ)を、改めて強化してくれる作品でした。

漫画以外は二の次で、平気で恋人を傷つける漫画家・千野と、そんな千野を密かに推す、千野の元上司・香坂。
生活能力がまるでない千野の為に、香坂が身の回りの世話を買って出る日々。ところがある〆切明けの朝、千野から「俺とセ.フレにならない?」と突拍子もない提案をされ、香坂の日常が少しずつ乱されていく…。

推しからの誘惑。普通なら舞い上がるような展開で、すんなり事が進むかと思いきや、同意なしの接触をしっかり拒絶し、NOを言える香坂がとても良かったです。断る権利大事。生での挿入や非同意の危険性にも言及があり、作品全体への信頼感が増しました。

恋人としてはクズかもしれませんが、恋愛規範に縛られたくない千野の価値観には共感しました。信頼の篩の網目が細かいというか何というか、まさに「ラッキーがめちゃくちゃ重ならないと発生しない現象」(このコマの千野の表情の可愛さたるや!)…とはいえ、いくら価値観が違っても、恋人を性欲解消の道具のように扱っちゃ駄目です。

恋愛と性愛を切り分ける千野、分けられない香坂。経験は豊富なのに「恋はしたことがない」と語る千野、頭では拒否しているのに心が言うことを聞かない香坂。そんな二人が、それぞれ気持ちを自覚し、恋が加速していく心の動きが丁寧に描かれていて良かったです。

そして、何より最高だったのは千野が洗浄を手伝うシーン!これ相当な愛情がなければできない行為(フェティシズムや仕事は除く)ですよね。香坂の過去にもありましたが、本来なら大切に扱うべき器官であり行為なのに、それを蔑ろにするのは酷いことじゃないですか…。指にもゴムをつけてくれるところにも優しさを感じ、ぐっときました。

同族としての直感ですが、千野は奇跡的に恋愛と性愛が重なった今、きっと香坂のことを一途に愛してくれると思ってます。読後感は温かく、幸せな気持ちになれました。

違いは間違いじゃない。それぞれに価値があって、美しい。
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