草食むイキモノ 肉喰うケモノ【特別版】
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草食むイキモノ 肉喰うケモノ【特別版】

今城けい/梨とりこ

梨とりこ先生の表紙絵に一目惚れ

ネタバレ
2025年7月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙では、主人公の一人、牧野幸弥と、もう一人の主人公、関目将之の人物像を梨とりこ先生が的確に表現しています。性格からお互いを思いやる心までもが表情やしぐさに見事に表されています。彼らの後ろにいる千林は、二人の気持ちに気付いているので、陰になり日向になり二人の関係がうまく進んでいくように援助してくれます。
二人の初めての出会いは、入社式ですが、困っていた牧野を関目がかばって助けてくれます。この時に、牧野の心の片隅にひっそりと関目への思いが燈ったのかもしれません。
そして、五年もの長い月日を経て、その思いが心の中でゆっくりと育ってきたのでしょう。言葉で表せないほどの思いを何と名付けてよいのか牧野はわかりません。唯の信頼できる先輩というだけではないのですが、彼の存在のお蔭で牧野の日々は多少の不快な出来事をも相殺できる程になっています。
牧野を不快にさせた上司ですが、彼の存在の所為で牧野と関目が親密になることになったので、二度と思い出したくない人ではあるのでしょうけれど、関目にとっては牧野との関係性が変わる切っ掛けを作ってくれた人物ではあるのです。
十五歳の時、一度に家族を失って、誰とも親密な関係を築くことができなかった牧野にとって、関目との日々は何にも代えがたい大切なものだったでしょう。心が通じ合ってしまえば、彼に対する溢れる程の思いは身も心も蕩けさすほどのものになります。
唯一つ残念なのが、牧野が自分を指す一人称が「俺」であることです。彼の人物像に相応しい一人称は、私的には「僕」で、公的には「私」です。ボーイズラブ小説では、「俺」を当然のように使いますが、それぞれの人物によって使い分けて欲しいものです。終始違和感を感じながら読み進めました。それさえなければ、この小説は完璧でした。
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