鼓動の秘密
」のレビュー

鼓動の秘密

金田力金男

君がいる場所に帰る

ネタバレ
2025年7月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ 作家様買いです。金田力先生が描く、真っ赤に染まる夕焼けや、黒い積乱雲が押し寄せる青空のような、美しいのに不穏な雰囲気が好きです。

進学校の寮の同室、生徒会に所属する模範生である国府津と、掴みどころのない不良生徒、根府川。その自由さから迷惑ばかりかける根府川を、国府津は放っておくことができない。帰省期間、寮に残った二人。居場所のなさにおいて共鳴し、寮という仮初の居場所で心を通わせ始めるも、想いが上手く交わらない。そして雪の日、バイク、海。帰れない、帰りたい、帰りたくない、それでも、帰る場所はある。居場所のない二人は、同じ場所へと帰っていく――。

それぞれにそれぞれの地獄がある。他人にはわからない地獄がある。各自でやっていくしかない。けれど、待っていてくれる人がいることは、同じように苦しみながら生きている人がいると知ることは、大きな慰めではないでしょうか。

若さ故に思い詰めやすいのか、思い詰めてしまうのが若さなのか。頭が良くて真面目なんですよね、二人とも。内向きに真っ直ぐで、心配になる。

家族仲が良く、いつでも帰れる場所があることのありがたみ、その通り。でも、帰れる場所で、息を殺さなくてはいけない人もいる。恵まれてると言われようとも、帰れる場所と帰りたい場所は、必ずしも一致しない。待ち人のいる場所まで帰れなかったことが悔しい。馬鹿だなあ…自分で言った〈贅沢〉以上の再会なんて、そんな悲しい話あるかよ。

なあ根府川、どんなに積もっても、一人じゃ雪合戦はできないんだぜ…。

自暴自棄になるのも、死ぬことをやめても、帰りたいと思っても、命あってのことだから。生きようと決意した、その瞬間に死んでしまうことだってあるのだから。とはいえ、待っている奴がいなくとも、また、待っている奴が自分自身であっても、何の問題もないということも、声を大にして言いたいです。

最後に、国府津は根府川の後を追ったのだと私は思ってます。「また笑われるだろうな」は、根府川をひとりにしないという選択だったのだと。手紙を書いたこと、そして第二ボタン――そのすべてが、彼らの間にあった恋愛に近い情の証のように思えます。静かで儚い、純文学的ブロマンスでした。
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