愛人を囲う冷徹な伯爵との典型的な政略結婚、そして嫌われからの溺愛、その結末。【シーモア限定特典SS付】
」のレビュー

愛人を囲う冷徹な伯爵との典型的な政略結婚、そして嫌われからの溺愛、その結末。【シーモア限定特典SS付】

宝楓カチカ/色素

何も知らないまま読んで欲しい作品

ネタバレ
2025年8月1日
このレビューはネタバレを含みます▼ まずネタバレレビューは読まずに、試し読みもせずに、まっさらな状態でこの作品に出てくる全ての登場人物と向き合って欲しい。
読了後、きっとあなたは人間を感じる筈です。

この作品は読み進めれば読み進める程に鳩尾が引きちぎられるような錯覚を起こす程に苦しみを感じます。
ドアマットヒロインだとか、ざまぁだとか、そんな言葉では言い表せない程に重い。ひたすら重い。
前半に描かれる男が恋に堕ちていく日常パートに随所に差し込まれるささやかな表現が、パッとひっくり返る瞬間はまるでミステリー。

重苦しくも鮮やかに彩られた男と女の人生。
読んでいる最中に赤と緑がくるくるとチラつきます。

全ての登場人物がただただ人間でした。
悪人でもなく、善人でもなく、悲しいほどに生きた人がこの作品の中に詰まってます。
男を悪魔にしたのは男を無関心に踏み躙った人間でしょう。
女が悲しい復讐者になったのもまた人間に踏み躙られたからこそでしょう。
だけど悪魔に愛を教えたのもまた人間で、憎しみに囚われた女に慈雨を注いだのもまた人間。
男の悪魔のような所業も、女が復讐の為に心を殺すのも、人間の生々しさを感じます。

そうやって苦しみながらも生きたからこそ繋がった人達が居て、そうやってまた未来で繋がる。痛いからこそ幸せ。これがまさに人生だな、と。
痛みも幸福も人と関わらなければ生まれない。
女が愛を教えた事で、悪魔が人間に戻り、人間に戻ってしまったからこそ狂う程の痛みを知った。
それなのにどれだけ痛くても狂っても愛を捨てられない。愛を知った事で傷だらけの中で幸せを感じる男。

この作品はTLというよりもヒューマンドラマです。
人間の生々しさがヘドロのようにまとわりついてくるのに、なぜか暗闇の中にポツリと光が見える事で人間は醜悪なだけではないのだと感じられる色鮮やかな愛憎復讐劇。

これから先何度も読み返すだろうなと思える作品でした。
いいねしたユーザ3人
レビューをシェアしよう!