このレビューはネタバレを含みます▼
初めての作家さんでしたが、試し読みの感触が良くて読んでみました。試し読みでは、ニワトリの擬人化も可愛かったし、雛の段階で雄か雌かで将来が変わる…というのも知識として知っていたので、逃げ出した先には(絵柄的にも)ドタバタラブコメ系のハピエンしかないと思っていました。
が、意外にも性別や種族・常識までも乗り越えた深く大きな愛の話で、まさか涙するシーンがあるとは思ってもいませんでした。コッコが、オットから貰うものの全て(夫そのもの・名前・一緒に寝ること・働くこと・昼寝でさえも)に、全身で喜びを表して心から幸せそうで、それでいて依存するのではなく、生きる目的みたいな固い決意をもって別れを選ぶシーンには、切なくて泣けました。純粋無垢な魂は、世間擦れした男(オット)の心・生き方さえも変えてしまうのだなと思い知りました。
この作品の何が凄いかと言うと…結局、オットは(もっと言うとコッコの周りの者全員が)最後まで真実(コッコは雄だから卵は産めないと)伝えないんですよね。つまりは、誰もが嘘つきでこコッコを騙しているも同然だと思うんです。この場合、「相手を思いやる嘘」とは少し違う気がします。でも、誰一人として悪者はいない絶妙な落とし所が凄いと思います。
突き詰めれば、「誰も真実を伝えていないだけ」で、「嘘つきではない」のかもしれません。それでも信じているコッコからしてみれば「虚構の世界」なわけで…複雑な心境になりました。
可愛い作画とストーリーであるのに、ある意味メリバのような結末で、でも誰もが幸せな気持ちになる、不思議で優しいお話でした。真実を伝えることが、必ずしも幸せに繋がるわけではないと学んだ作品でもあります。