オリヴィア嬢は愛されると死ぬ ~ 旦那様、ちょっとこっち見すぎですわ ~
」のレビュー

オリヴィア嬢は愛されると死ぬ ~ 旦那様、ちょっとこっち見すぎですわ ~

紺染幸/DSマイル

呪うカミラと空腹のオリヴィアと朴念仁ども

ネタバレ
2025年9月16日
このレビューはネタバレを含みます▼ 容易に言葉や文章を世に出すことができるようになり、
「世界に出る物語が増え」多様な「海」があることを
知ることができるようになりました。その一方で、
安易で乱雑な文(と編集)の悪意も溢れ、
「言葉は変化するもの」と正論を吐きつつ、
本来の言葉の持つ響きやその意味、用法などが軽視され、
きれいな言葉に触れる機会も減ったように感じます。

「私が言葉のことで手を抜くと思うか」
そのクラースの言葉の通り、本作では「広大な海」を表す
一つ一つの言葉が丁寧に吟味され、間違いのないよう、
慎重に選びとられ、五と七のリズムを刻みながら、
やさしくて、かなしくて、さびしくて、しあわせな、
愛の物語が季節の移ろいと共に静静と紡がれていきます。
そうした作者の「海」にたゆたいながら、
「すべての文章がこうだったなら」
と思ってしまいました。

また、死を望まれるオリヴィアはやはり春を迎えることには
なりますが、それは運命の先送りであって、結局
死とは逃れられぬ私たちの運命であり、
そうした運命を見つめながら生きることの大切さが
根底に横たわるテーマとなっているように思います。

「どうせなら楽しく」「死ぬ前に一度だけ」
そんな勇気と覚悟を持つこと、
大切な人に伝わらない想いを日々伝えること、そうした、
毎日を過ごすなかでつい忘れてしまいがちなことを
死を見つめるオリヴィアに改めて気づかされます。

ただ、近年つかわれるようになった「真逆」
その言葉の響きがとても現代的であるために
そこだけささくれだっているように感じられて
ほんの少し、残念に思いました。

古くから大切にされてきた言葉という音が持つリズムと
ひとの真心に触れることのできるすてきな作品です。

「わわわわ、と揺れている」
花花の幸福の余韻に浸りながら。
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