このレビューはネタバレを含みます▼
この作品は物語全体にジワジワと心を侵食してくるような仄暗く湿り気のある空気感が漂っていて、読み進める程そのダークな世界観に深く引き込まれます。
序章は恋愛の陰りから始まりますが、ただ恋愛の陰りを描いているだけではなく家庭の闇や生活環境そのものが登場人物達に濃い影を落としており、その閉塞感が作品全体に重たくのしかかって次の展開が気になってしまう作品。
過去に抱えた傷や、今を生きる上で逃れられないしがらみが静かに積み重なり、息苦しいほどの湿度を帯びた空気を生み出しています。
特に主人公を取り巻く環境の暗さは彼女の心情にそのまま滲み出ていて、読んでいるこちらまで少しずつ感情を抉られるような感覚に。樹里が自己肯定感が低くなる程傷付いて来た過去が現在の言動や感情にまで深く滲み出ていて胸が締め付けられました。
そんな重く沈んだ環境の中で、特に蓮の存在が樹里にとって救いであり物語に一筋の光をもたらします。
樹里と関わるようになった理由がまだ明かされていないからこそのミステリアスさがたまらず、優しさだけでは語れないいつか消えそうな儚さを纏い危うく謎めいた雰囲気や色気に強く惹かれる筈。
直接手助けせず用意周到に周囲を静かに固めながら樹里を救い出そうとする慎重さの中に残虐的な計画性の怖さもありながら、樹里の事になると冷静さを失いなりふり構わず動いてしまう姿も心に響く…
彼女の為なら何でもしてあげたい守り抜きたいというスパダリ感や、一途なワンコのような激重の愛が彼の魅力をより際立たせていて、その執着がズブズブとこの物語の沼に引きずり込みます。
また、樹里が戸惑いながらも少しずつ蓮に惹かれていく過程が可愛らしく傷ついてきた彼女の心がゆっくり解けていくのを温かな心で見守りたいです。
一方で、鉄平も物語に深い陰影を与える存在。元々は正義感が強く樹里を心から好いていた人物だったからこそ、彼が樹里をないがしろにするように変わってしまった事がとても切なくその変化がこの作品をほろ苦い印象にし、樹里の心は自分から離れないと思っていた鉄平の前提が蓮の愛情によって崩れていくであろうと予感させる流れも非常に見応えあり。
この先樹里と蓮の物語が明るい未来へ向かうのか、それともメリーバッドエンドのような美しく苦い結末へ進むのかまったく予想が付かず、最後まで読み続けずにはいられないと渇望させる傑作。