恋じゃねえから
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恋じゃねえから

渡辺ペコ

今井の論点ずらしと紅子の向き合い方

2026年8月15日
創作や撮影の場では、作品の裏側で女優やモデルが苦悩を抱えていたことが、後になって明るみに出てくることがある。「#MeToo運動」や、有名写真家のモデルによる告白など、表に出ている美しさと芸術性の「裏側の当事者の声」は消費者には届きづらい。「綺麗だから」「芸術だから」と受け入れてしまうこともある。

40歳の茜は中学時代の学習塾の講師・今井が発表した彫刻「少女像」が、かつての親友・紫に似ていることに気づく。創作と性被害、「恋」と呼ばれた感情の真実が少しずつ明らかになっていくーー。

性被害そのものだけでなく、それを見過ごしてしまう社会の空気や、立場の異なる女性達がどう向き合うのかというシスターフッドも描かれる。

自分も誰かの苦悩や犠牲に気づかず、当たり前のように享受してきたものはきっと沢山ある。仕事にも、学校にも、家族や人間関係、お店や習い事にも。楽しさや、幸せの裏側にも誰かの我慢や負担が隠れていたかもしれない。

紫はルッキズムから距離を置くキャラとしても描かれている。社会から変化を求められ続てきたアラフォー世代。茜は戸惑いながらも変化を受け入れようとする。26年の月日が流れても何も変わらない今井。

1巻で興味深かったのは、茜、紫、紅子、それぞれの今井との向き合い方かもしれない。
職場にも今井のような男性がいる。確認したいことから次々に論点をずらし、最終的には相手を悪者して自分のプライドを守り、問題をうやむやにする。
茜は感情でぶつかり、今井を変えようとする。紫は傷つきながらも、少しずつ言葉にしていく。紅子は感情に流されず、論点を整理し、責任を曖昧にさせない。
紅子は「大切なことだからもう一度言うね」と今井の論点ずらしを遮る。「今話したいのはこれ」と話を戻し、理解を確認して、責任を曖昧にさせない。感情で勝とうとしたり、相手を言いまかそうとするのではなく、話し合いを成立させようとする。会話にならないときは「また話そう」と曖昧に終わらせない。
自分もこういう向き合い方を覚えようと思った。

三者三様の女性達。性被害に関わる立場としても、今井と関わる立場としてもブレずに描き分ける作者。

現実では「コメントは控えさせていただきます」と姿を消すこともできる。作者は今井という加害者から逃げない。罰したい、晒したい訳ではなく、曖昧にはさせない。
でも読者に委ねてもくれる。
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