恋に落ちたマリア
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恋に落ちたマリア

ルーシー・ゴードン/立花実枝子

町が、一族が、彼が、義母が愛してくれる

2016年10月21日
愛されることに慣れず育ったヒロイン、マリア。彼女は愛されることを窮屈に感じ、受け止めきれず持て余し、挙げ句逃げ出してしまった。

彼と出会って、結ばれ、結婚までしたものの、何処かいつも、孤独に戻るということを自分の常態と考えているところがあった。

みんないい人だというのは解る。しかし皆のなかにいると、いっぱいいっぱいの気持ちとなり、自由を失った気がして段々自分が無理していることに耐えられなくなったのだった。

人の好意がヒロインには居心地が悪く、特に、お姑さんの自分に対する対応は彼女を混乱させた。

愛があれば、と言うけれど、愛し愛されという関係がヒロインには安住の難しいものだった。

腹をくくってヒロインはやっと、愛を受け止める、只、受け止める。これまで達しなかったところへ入れたのは、婚家を飛び出す前にあった不可解な義母の行動のその理由、それが自分への愛だったのだと判ったから。お姑さんの何十年と抱えてきた心の痛みを思うと、この場面は感涙必至。
そして、お嫁さん視点で終始描かれていたこのストーリーが、そこのところの事情説明によって急にお姑さんの胸中の側に、わたしの心が想像力で視点がひとりでに移っていってしまう。
この時、ヒロインに出ていかれてしまって、残されたお姑さん(夫も勿論、なのだけども)はどれだけショックで、そしてどれほど悲しかったかと、完全に姑さんサイドで感情移入。

私は娘もいるし、妊娠と出産をとてもとても神様に感謝した人間なものだから、ここからあとはヒロインはわたしの脳内では遠ざかっていき、あとはほとんどお姑さんのストーリーにしか読めなかった。

伝わらない相手にうちひしがれて病気にまでなったお義母さん。最後になって、嫁さんが母になることを通じてなんとか心を開いてくれるようになって、ほんと、良かったね。

愛って、HQでたくさん実っているけど、本当は咲くのも育てるのも実を成らすのも、デリケートなものだと実感させてくれる。

それでも、愛を与えられ、受け取る存在あって、広がるものだと気づかせてくれる。

一組の男女が恋に落ちる、子供ができる、これらの出来事は、全然二人だけの小さな世界の現象で終わらないのだと改めて思った。今と過去を結び、人に、時に孤独な者に、兄弟姉妹や親、或いは子を亡くした人に子を与えることでもあると感じた。
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