屋根裏の聖母
」のレビュー

屋根裏の聖母

シャロン・ケンドリック/藤田和子

7年かかって愛を自覚した彼

2017年2月11日
息子を可愛がるヒロイン。 一夜の過ちとして片付けられてしまった翌朝から、彼の前から姿を消した。

HQはなぜこうもひとりで父親を知らない子を育てる話が多いのか。そして、しかもなぜ、そこから結婚に?
ストーリーはそれぞれに背景や経過を語り、男性に、その時から実はもう好きだったんだ、と愛を遅れ馳せながら気づかせる。

ストーリーは新奇性無いが、相変わらず絵柄が断然魅力的で、コマの枠をはみ出してくる作図が巧い手法。
男性も女性も、藤田先生は綺麗に描かれ、温かみがある。照れたような恥ずかしそうな表情に可愛いげがある。男性はヘルシーな存在感があり、かつセクシー。女性はどこか純な清潔感があり、そしておそらく男好きのするたたずまいとはこういうことではないだろうか、という雰囲気を持つ。

彼ディミトリーの育った環境はかなり特殊で、さすがオリガルヒ設定とも言える一方、ロシアの利権抗争に、彼の父親ならば真っ只中にいただろうが、ディミトリーからは全く政治的野心を感じられない。これで、本当にオリガルヒ設定とは無理がないか?と思える、ハーレクインの甘さしかない。

また、HQがよく使う舞台である中東も出てくるが、またまた、服装しかかの地を想像させるものがないほど、かなりらしくなさそうな光景ばかり続く。

このストーリーで、私が強く記憶に残ったのは、「父親の責任を放棄する気はない」といった、ディミトリーの台詞と、「親とは途中で辞めることはできないのよ」と、ヒロインが彼に言った言葉。この基本が貫かれていることが本作品を信頼に足るクォリティにしている。

彼への愛が消えていないことを再会したばかりで早くも自覚するヒロインと違い、ディミトリーは、ヒロインを愛していないと明言していた。
しかし、冷たい家庭で父に愛されなかった、愛は注がれなかったと思って、家庭の味を知らないとばかりに暗い生育環境を思い返して、ヒロインへの愛を、それが愛だとの自覚がなかった。

ただ、このストーリー、ヒロインは、彼からの彼女への、愛している、との一言がほしかっただけ。
と言ってしまえば、みも蓋もなくなるが。藤田先生の作品世界は、そのどこかであったような話を、かくも美しく映像化してくれるハーレクイン職人だ。
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