甘美すぎる復讐
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甘美すぎる復讐

インディア・グレイ/藤原基央

復讐心を愛が消し、別離は愛を消さなかった

2017年3月29日
因縁と憎悪、階級意識と名家の体面。家名を汚したヒロインはファミリーのイベントでは小さくなっていた。彼はヒロインに近づいた目的と、ふくらむ恋愛感情の狭間で揺れる。
成就できなかった悲恋が50年燻り続ける中、ヒロインは彼がどんな目的をもって自分に近づいたとしても、彼への愛情を抱いたと言いきれるほど、自分を取り戻した。そして、過去の過ちを乗り越えた力強さを見せる。拭い去れないかの様な、元彼に騙された痛恨の出来事が今もヒロインを苦しめようかというとき、彼が完膚なきまでにその悪い男を封じてくれる。もう過ちの亡霊に怯えることはない。彼のお陰で。

ストーリーは、愛憎のドラマというよりも、常に愛が勝る、くらいの展開。
男性の年齢表現が弱く、外見では設定年齢通りよりも数十年若く見えてしまう。この点が少々残念。
ヒロインの目がかなり大きいコマがいくつかあってドラマ性を下げてしまっているように思えた。

ヒロインが騙されて、或いは絵の説明を得る目的とで、複数回のヌードとおばあ様の裸婦像とがあり、さらに、彼の筆遣いによる官能的なシーンもある。描きようによっては相当強烈になり得たろうが、藤原先生の筆致はいやらしさをなんとか退けた。(それでも、感覚として1/3~1/2に女性のセミヌード絵があり、読み場所は注意。)

50年前から変わらず気持ちが続くのはいくらHQでもやはりそれなり驚嘆するストーリー。
それは少しも悪くないとしても、引き裂かれた二人を、ヒロインと彼の薄からぬ縁が再び引き合わせるのだが、肝心のメインキャラの見映えがコマによって異なり、入り込み辛かった。同一人物に見えないと、読み手としては、作品の世界に距離を置いてしまうので、「悲劇」のムードに同調できない。
乗り損なったまま、メインキャラの結婚云々のシーンまでついに盛り上がれず読み終わってしまった。
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