ミツコの詩
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ミツコの詩

榎屋克優

力技ではある、が

ネタバレ
2017年6月5日
このレビューはネタバレを含みます▼ 詩の朗読(ポエトリー・リーディング)という、よくいえば大胆、わるくいえばたいへん地味な題材なのだが、作者が「日々ロック」でヒットを飛ばしたあとだけに、どこか安堵しながら読んでいる。
物語自体はまだ「起」の段階であろうから、第1巻の時点ではそのタテイトヨコイトについてなんともいえないが、実在する「詩のボクシング」や、文学フリマを模したようなイベント(主催らしき人物が「寺っち」なので故・寺西氏=詩マーケットをうっすら連想する。偶然だろうけど)も早々に登場し、いまのところ綴られる内容としても現代詩の、また詩人の実情に近いといってよいとおもう。
余談ながら2002年「詩のボクシング」大学生大会では作者の先輩の精華大生(現バンドマン)がベスト4に進出していた(優勝がアーバンギャルド松永天馬)。なんとなく、作中での朗読シーンの描かれ方、雰囲気として、そのころをおもいだした。
吹抜、ミツコ、小林くんをはじめ登場する詩人たちはそれぞれアクが強くて惹きつけられる。ただ、ひとつだけ注文をつけるなら、いまのところ、彼らの詩風が、ぜんぶ榎屋調なのがすこし気にかかる。魅力的な詩ではあるとおもうのだけれど、ふつう詩にはそのひととなりがめちゃくちゃ出るので、そこが画一的だと、人物群像がひらべったくなってしまわないか。
無粋を承知でツッコむなら、また、その中身が現代詩畑っぽくも、ビートっぽくも、あるいはポエトリーラップっぽくもなく、70年代フォークや洋楽ロックの翻訳調の系譜なのはリアリティに欠ける(実際、そういう詩風は詩壇においても朗読においても相当少数派である)。
ひとことでいえば、現実的ファンタジーとしてはそのキモの部分がすでに力技なのである。せっかくリアルに寄った舞台設定であるのだから、そこらへんがもうすこしどうにかならないかしら、などと感じた。
ともあれ、現実と虚構のリンクという意味でも、こういったテーマの作品の稀少さという点でも、続刊をたのしみにしています。
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