いつかかなう夢
」のレビュー

いつかかなう夢

津谷さとみ/リズ・フィールディング

怯むことなく向かってきた男性のかっこよさ

2017年6月6日
読むの辛いかもと躊躇っていて、なかなか読み始められませんでした。読み進めていくと、彼の素敵なこと!真っ直ぐ、ときにいたずらっぽく、彼の瞳が語りかける津谷先生の絵のうまさ。
ひと押しひと押し、ヒロインに充分心を配りながら関係を進行させ、時折真剣さを帯びる中で、ヒロインの引きこもりのような心を解いていきます。読むのを躊躇してた私よりも、お話の中の人物であるヒロインのほうが、もっと大変。事故の後遺症の脊髄のことのほかに、事故のビフォア・アフターの元彼と、元彼をめぐる周辺の状況の変わりように心が折れそうだったはず。家庭を想像したときもあったのに。事故を境に一度に押し寄せた悲しい出来事のせいで苦しみの底にいたヒロインの状況を、彼は十分理解します。彼が導いて明るいところに次第に出ていけるようになるヒロインが、なかなかそれでも飛び込みにくい、引け目をなにかと感じてしまう心境も、読者として理解できるのです。

家屋の中も外も細やかに描き込まれて、二人のいる世界の臨場感に引き込まれます。

本編で彼との成就、プロローグが後ろに番外編のようにして過去の話が組まれた、時系列前後するこの方式に抵抗感のある読者もおられるようですが、私は、それは仕方ないと見ています。
先に登場した人間に人は愛着を寄せてしまう傾向があるのを利用して多くのドラマは作られます。天の邪鬼を除けば先に元カレを彼より先に出すと人は、早くから視覚情報を得た元カレに、より親近感を抱き易いのです。
ロマンスに光を当てる為、まずメインを視聴覚的には先に出すのがセオリーです。
ドラマ制作の鉄則を弁えたプロの先生のお仕事です。

このストーリーは、彼が良すぎるから、彼の抱っことか、チャーミングな仕草とか、あれこれなにかとヒロインのことを構う材料見つけては共に過ごすひとときとか、そんな描写を楽しめるのですが、それでも、もしも時間軸そのままにプロローグを冒頭に置く危険を冒すと、彼の良さが減じる可能性を生んでしまいます。
どのHQも、主役の二人より前に、対抗馬は出さないか、出しても、ハッキリ顔を描写することは避けるはずです。「王道」の戦略を採った結果と思われます。共に雑誌掲載かなにかで発表されている作品のコミックス収録となれば、普通に元の編集通り双方収録の上で単行本化、原作の存在を尊重するならビフォア部分の割愛は考えられないことでしょう。
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