このレビューはネタバレを含みます▼
苦しみを抱えた2人の描写、記憶が断片的に引き出されていく過程、所々に真実を誘引するものを交えながらの構成と展開、秀逸でした。後半、ヒロイン視点の後にヒーロー視点で同じ場面がでてきますが、描写の仕方の違いやそこに辿りつくまでの流れも一際卓絶しています。台詞や情景の相違に真実の詳細がわかる前と後という事もあって、同じ場面であってもどちらも臨場感がありました。個人的に最も心を掴まれたのはヒロインを想うあまり心身共にボロボロになったヒーローの打ちひしがれた姿と激しい内面描写でした。この場面は特に何度読み返しても涙腺が緩くなります。ヒロインへの酷い行為は衝撃でしたが、それ自体にページ数を多く割かずに葛藤が前面にでていたのも良かったです。ヒーローの脆い部分を包み込むようなヒロイン描写も素敵でしたし、苦悶する溺愛ヒーローのズルさにもつり込まれてしまいました。罪の意識に苛まれながらも抑えられないという感じが何ともツボです。巧みな心理描写にすっかり気持ちが持っていかれつつ、話自体も引き込ませる進み方で凄く好きな作品となりました。