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今月(8月1日~8月31日)

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シーモア島
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  • 単独飛行

    ロアルド ダール/永井淳

    タンザニア・ケニア・エジプト・ギリシア他
    ネタバレ
    2026年8月12日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 作家ダールの1938年〜1941年頃の回想録。同じく回想録の「少年」ではパブリックスクールを卒業後石油会社の営業員となり、東アフリカ行きが決まったところで終わりでしたが、今作ではいよいよ東アフリカ、タンザニアへ。不思議なライオンとか、毒ヘビとヘビとり名人の話も緊迫感があって面白いですが、ナチスドイツが拡大する時期で戦争が始まったとたん、イギリス軍の臨時将校として現地のドイツ人避難民たちと対峙するはめになるダール青年。その後空軍パイロットに志願し、無事訓練を終えた後初任務の単独飛行で重症を負い、復帰したものの戦況は圧倒的に不利で、交戦するたび少ない味方はさらに減っていき、次に敵が押し寄せたら全滅だというピンチをなんとかのがれ、結果的にはとても強運だったと言っていいと思うのですが帰国して母親と再会するところで終わっています。青春モノであり最前線での戦争体験記でもありますが暗さはあまり感じられず、その日その時の出来ごとに引き込まれて読みました。移動しながらアフリカの景色や野生動物のようすに感激したり、愛車で砂漠の単独ドライブを楽しむ場面(故障したらどーするの、と思ったらホントに立ち往生してます)もあって総体的に面白かったです。
    東アフリカや中近東の地理とか当時の世界情勢、またタイガーモス、ハリケーン、ワンオーナイン、Ju−88,メッサーシュミットなどの航空機に詳しいとより楽しめるかもしれませんが、雰囲気で読んでも十分楽しめました。ある程度は説明がありますしね。また、ダールの「飛行士たちの話」という短篇集がありますが同じ状況が出てきますので、再読する時は意識して読み比べたいと思います。
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  • 少年

    ロアルド ダール/永井淳

    駄菓子屋・船旅・寄宿学校・そして手紙
    ネタバレ
    2026年8月12日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 1916年生まれの作家のこども時代の回想録。ざっと100年昔のイギリスの話ですが、7才の頃は駄菓子屋が生活の中心とか、夏休みの家族旅行(大人数で両親の故郷ノルウェーへ片道4日!)など親しみを感じる一方、教師がためらいなくこどもにムチをふるったり、9才で自宅を離れて寄宿舎に入ったりなじみのない部分も。医療事情もへぇ~となりました。進学したパブリックスクールでも教師や監督生の横暴に悩まされますが、スポーツや写真の才能が開花して楽しい大学生活が送れそうなのに違う世界が見たいとさっさと石油会社に就職し、東アフリカに派遣が決まると大喜び。陰鬱さと痛快さの振れ幅を上下しているうちに、気がついたら南国の景色と野生動物が大好きな冒険野郎のいっちょあがり!といったら大雑把過ぎでしょうが、楽しい作品でした。ダールの母親がまた剛毅というか女傑というかしっかりした女性で、母と息子の関係が良いのもホッコリしました。
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  • 飛行士たちの話

    ロアルド ダール/永井淳

    20世紀前半の話
    ネタバレ
    2026年8月12日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 作者のダールは今なら映画「チャーリーとチョコレート工場」の原作者、と言ったら一番わかりやすいのかもしれませんね。第二次世界大戦中、イギリス軍のパイロットとしてアフリカやギリシアなどで任務についていた経験をもとに書かれた短篇10作。アニメ映画「紅の豚」と関連する話も入っていて、戦時のようすが伝わります… と言ってもわかりやすい現実的な部分と、夢の中のような不思議な話が入り混じるもので、正直自分がちゃんと理解できているのか心もとないのですが。そんな煙に巻かれたような気分にもなる作品ですが鮮烈な印象のシーンもいくつかあって、例えば怒りに燃える小さな人が敵の前でとった行動とか、戻らない友を待つ時間とか、燃える爆撃機に家族が乗っている時… 今の世界でも、一部の国では現実の話だと思うと言葉がありませんが、文章はシンプルな感じで1作ずつなら短時間で読めると思いますので、ご興味のある方はぜひ。
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  • 王子は無垢な神官をこよなく愛す【単話】

    今市子/釘宮つかさ

    なんか好き…いえ、すごく好きです
    2026年7月26日
    大国の王子レーヴェと、北の小国からやってきた不思議な占いの力を持つ若き神官ナザリオのお話。ストーリーも好きだけど、なぜか無性に惹かれるのはやっぱり絵の魅力かしらと思います。中世らしき衣装、馬や馬車、美しいお城や町並みなど雰囲気たっぷり。人物は脇役・ちょい役でも(俗人でケチケチの大司教様なんて特に)なんだか生き生きしていると感じます。ナザリオは女性向けマンガによくあるキラキラお目々ではないのが正直地味に感じたのですが、慣れてくると困ってたり目をみはってたり表情豊かなところがかわいい… これは王子はじめ周りの人達が庇護欲刺激されるよな〜そういえばBLだったわ、と思いつつ今はおとな向けのおとぎ話感を楽しんでいます。最新の単話5巻ではナザリオのピンチに王子がかけつけて救出したところで終わってしまい、原作も大変気になりますがたまたま漫画版から入ったらびっくりなほど楽しいので、まだしばらくまっさらな頭で「今先生版・王子は無垢な神官をこよなく愛す」をお待ちしたいと思います(なので早めに続きを〜!)
  • 一次元の挿し木

    松下龍之介

    イカれた犯罪者が怖い
    ネタバレ
    2026年7月23日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙のアジサイと骨の組み合わせ(花の部分には頭蓋骨も?)がちょっと印象的、かつ意味深。
    前半の内容は過去と今が飛び飛びにやってくる構成で、しかもわりと短い文章でさっと次に進んだりするので何だかせわしないぞ、と思いましたが遺骨とDNA鑑定、若い義兄妹、研究者と製薬会社、宗教団体と信者と子などのつながりが少し見えてくると面白くなってきて、後半は一気読みでした。イカれた犯罪者がくり返し登場して、そのたびヤバい雰囲気がどんどん濃くなっていくのがけっこう怖かったです。具体的に犯行の描写が無くて結果が示されるだけでもゾワッとなりましたので、ホラー寄りの作品が苦手な方は少し用心されたほうがいいかもしれません。あと冒頭に出てくるループクンド湖のことを全く知らなかったので、検索したら骸骨湖として出てきた(解説でも実在すると触れられておりました)のを見まして「ほ、本当にあるのか…」とびっくりでした。
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  • 皇弟殿下と黄金の花嫁【特別版】(イラスト付き)

    釘宮つかさ/yoco

    裏の主役は遊牧民の暮らし、かも
    ネタバレ
    2026年7月16日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 麗人どうしのカップル。片や政務を取りしきりながら遠方の視察や犯罪撲滅のため現場指揮も行い、甥っ子のめんどうもみるし、薬師としても頼られていてこれ全部1人でやるにはムリでしょ!という意味で屈指のスーパーダーリン玉瓏殿下・黒髪細身色白赤眼で中性的な美貌の大国皇弟と、厳しい自然のなかで家族を守り羊の世話をして暮らしてきた遊牧民・淡い茶色の髪と金色の瞳のシリン。特殊な状況で出会ってシリンは殿下に保護されるのですが、けっこう最初から、大人の殿下が16歳のシリンに惹かれているのが微笑ましいです。笑顔を見てちょっと赤くなったり、なにげなく触れていたり。シリンも殿下に惹かれていくけれど生き方や境遇の違いを乗り越えて結ばれる様子を金色の瞳の花嫁の伝説や草原の暮らし、人身売買や逆恨みによる誘拐などを絡めてえがかれます。政変や皇位を狙う陰謀はないですが、ハラハラする場面もあって、読み物としての楽しさ、まとまりの良さを感じました。個人的にこの作品の前にマフィアものというか、元殺し屋どうしのカップルの作品を読んだので、正反対の魅力をとらえやすかったのかもしれません。そして終章ではちょっとだけ、20年後の世界が出てくるのですが、おお!可愛くて利発な第5皇子がそうなるの?それはまた壮大な物語が出来上がりそう。いつか、スピンオフにお目にかかれることを夢に見たいと思います。
  • 緑土なす

    user/みやしろちうこ

    眼福
    2026年7月12日
    異能のあらわれ方や王朝の成り立ちなど独特の世界ですが、レシェと兄上どちらの孤独もとても伝わってきました。2人の表情を見るのが好きでした。また王族の衣装や頭飾りが美麗で眼福でした。原作購入済ですがまだ読めていないので、そちらが読了したらまたコミックス版を再読したいと思います。
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  • 五つの季節に探偵は

    逸木裕

    自分を止められない探偵
    2026年7月2日
    5つの短編からなる作品。それぞれ事件も関係者も異なりますが、一貫してみどりさんという女性が登場し、探偵役をつとめます。1話と2話は比較的淡々と話が進み、みどりさんが大学を卒業し職業として探偵業についた3話はぐっと面白くなった印象。「あっ」と思う瞬間が鮮やかだった4話、職業倫理を超えて踏み込んだ行動をとってしまいがちなみどりさんが、後輩を導く役割の5話と、それぞれに良さがあるように感じました。できればこの先のみどりさんにも会いたい、と思ったら続編があるようですね。楽しみです。
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  • 父が牛飼いになった理由

    河崎秋子

    普通の人の波乱万丈
    2026年6月27日
    作者様がご先祖についてやご祖父母、ご両親などの人生を掘り起こした内容。親戚関係ってある種血筋を絶やさないための保険の役割もあったんだな…あまり実感したことはないですが。
    そして祖父母家族の満州からの引き揚げ(無事です無事)や戦後の暮らし、酪農家の苦労など普通の家族のはずなのに波乱万丈の歴史が、ノンフィクションらしく淡々とつづられます。でも登場人物の人柄などからユーモアをたっぷり感じられる作品。タイトルのお父様が牛飼いになった理由については、重大なものでは… でもきっと困難に出くわすと静かに闘志を燃やしていたり、家族や牧場での生活に対して愛情や誇りがあったんだろうな。お父さんかっこよかったです。
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  • 拾われ弟子と美麗魔術師

    ナユタ/瓜うりた

    2巻、闇が濃い
    ネタバレ
    2026年6月18日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 星5は暫定とさせてください。
    タイトルどうり、魔術師のもとで暮らす少女アリアと、美貌でオネェ言葉で、子どもころのアリアを拾って育ててきた青年魔術師ルーカスの物語。2人の遠慮のない会話や日常生活とともにアリアのルーカスへの恋心、ルーカスがアリアを大事にする様子などが描かれます。ルーカスの魔力が大きすぎて、ほぼ人外…とは思いましたが、ほのぼのとした家族愛とか師弟愛がそのうち恋愛感情に変わるかな?どーだろう?と考えながら読み進めていたのですが。
    実はけっこう不穏な物語で、特に2巻の途中からかなり様子が変わります。『座標を抜く』という表現が出てきますが、座標とは人を人たらしめる情報、というような説明がされていて、座標の中枢を抜かれたら死んでしまうとか。天才魔術師たちが人間狩りのごとく座標を集める行為を始めるし、アリアもそれにのっかってるかと思えば呪いの発動でえらいことになるし。表紙のような優しくてキラキラの、ラブファンタジーのはずじゃなかったのー??!!!! と心の内で絶叫するうちに2巻終了。アリアの幸せを願うルーカスの気持ちは変わらないのになんともダークで禁忌でホラーな展開。果たしてここからハッピーエンドに持って行くのか、ハッピーには終わらないのか、どーするのこれ…と先が気になる状態ではあります。作者さまが何か情報出されてるかな、と検索しましたら作品の原形?が公開されていましたがそちらも未完のもよう。次の3巻で決着がつくかな(個人的にそれ以上はついていけるか自信がないので終わってほしい)と思いつつ、アリアとルーカスに愛が残る終焉だといいなと願っています。
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  • 天才魔導士の過保護な溺愛

    佐竹笙/kivvi

    エリオの幸せ
    ネタバレ
    2026年6月14日
    このレビューはネタバレを含みます▼ エリオとヴァレンテが師弟関係から恋人同士に変わる日は突然やってきましたね。つらい経験を乗り越えた後の恋の成就で普通だったらエリオ、ヨカッタネとなるところですが、恋人にはなれてもできないことはできないし、悩みがなくなるわけでもないあたりなかなか現実的でした。2人の恋物語には違いないですがさらになぜ生きる?どう生きる?というテーマが色濃くて、とても丁寧に創られた作品だなと思いました。怠惰な大人の私もふと、若い日の気持ちを思い出した気がします。終盤はファンタジーの楽しさ炸裂で、スカッとする展開でした。エリオは学友の存在にあんなに悩まされていたけれど、顔ぶれが変わり立ち場も変わって気がつけば魔物討伐の仲間になっているのもよかったし、魔道具を使うのが楽しくて興奮してるヴァレンテが多幸感あふれていて、その後の庭でお風呂タイムも含めて最高でした。エリオ、ヨカッタネ!!
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  • 勅命結婚 恋と縁

    市川紗弓/榊空也

    華麗な怨霊退治BL
    ネタバレ
    2026年6月5日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 大正か昭和初期のイメージという時代感、軍人で怨霊退治の名門の当主という男に婚約者として迎えられるワケアリの異能者… ん?なんか既視感あると思ったのは、私だけではないのでは? それに市川先生の作品は過去に1作読ませていただいていましたが、残念ながら刺さらず… 購入するかずいぶん迷いましたが、読んで良かった!すごく楽しめる作品でした。
    怨霊に対抗するためそれぞれ結界・浄化・破魔の力を持つ御三家、霊力を高めるため勅命(帝の命令)として行われる婚姻、エンマ大王と地獄の関係者に目をかけられてる野暮天の若さま、刺繍にこめるまじない、威圧感半端ない男装の麗人帝、魂のあらわれの青い蝶、無声映画やパーラーでアイスクリームを楽しむ場面などなど… こんなに盛りだくさんで魅力的な内容をBLで楽しめるなんて、お得感すばらしい。受けの蓮くんがちょっと心配な体質で、多少イジイジしちゃう傾向はありますが、ちゃんとイチャイチャにつながる王道BLです。そしてこれだけ華麗な設定、1回きりなんてもったいないことはしないですよね? 鬼島さんや小紅さんはさらにご主人にツッコミを入れたり活躍してほしいなあ。蓮くんは変わらす刺繍したり、ごはん作ったり、なんならマッサージしてあげたりして征士郎さんを甘やかしてるところ見たいなあ。あと帝や花菱さんにいじられる征士郎さんとか、ちよっとした誤解でやけになってる蓮くんとか、独占欲まるだしの征士郎さんとか… はい!妄想全開で続巻お待ちしております!!
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  • 身代わりアルファと奇跡の子~赤い薔薇と苺シロップ~【特別版】

    華藤えれな/篁ふみ

    繊細なラブストーリー
    ネタバレ
    2026年5月16日
    このレビューはネタバレを含みます▼ エリートオメガとして管理された学園生活を送る愛理と、病弱な劣性オメガとして季節労働をして暮らしている海莉。この双子がすり替わるのですが、それぞれの想い人ウィリアムとヒューバートが異母兄弟、さらに愛理の子であるジュジュが外見的にはヒューバートそっくりとややこしい要素たっぷり。序盤慎重になりましたが、南仏の陽光やたくさんの花やハーブ、美味しそうなランチやスイーツなどに彩られた恋物語を楽しく読みました。オメガバースものをいくつか読んだ印象では、アルファはとにかく心身とも強くて圧倒的、ただしオメガのフェロモンには理性を吹っ飛ばされるイメージでしたが、2019年出版という本作のアルファはあまり強くありません。オメガのフェロモンには比較的冷静ですが精神的にはむしろ繊細でヘタレ。海莉に八つ当たりのような恨みをぶつけますが幼児や猫にやられているようすはコミカルでした。ヒューバートと海莉双方、気持ちにブレーキをかけながらの恋なのですが、海莉がしっかりものでなかなか包容力も感じるので、どこか安心して読み進んでいけました。
    あとがきを読んでびっくりしたのですが、華藤先生はその時点で既出本100冊とか。徐々に別の作品も攻略したいです。
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  • 盤上のアルファ

    塩田武士

    夢も希望もない所、からの…
    ネタバレ
    2026年5月14日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 前半がねえ。ひどいんです。いや、当時の新聞記者の働きぶりや、タイトル戦の舞台裏、置き去りにされた子どもとヤクザの交流とか、読み物としてはちゃんとしてるんですけど、なんかこう、潤いとか夢とかほぼ無くて、どんよりした荒野みたいな心象風景になるんです。性格悪いふてくされた男がいやいや仕事してたら、そりゃそうか。しょっちゅう途中下車してシーモア内別世界でキラキラやほっこりを補充しながらの並行読書になったので、えらく時間がかかってしまいました。逆に後半は青春小説みたいな爽快感で、もう新快速電車並みにビューッと読めました。全然説教臭さはないけど、孤独に生きてると希望ってわからなくなるのかもなあとか、他者を受け入れることで自分の救いになったりするんだな、とか感じさせてもらいました。
    将棋小説ということで、対局のシーンが作品のクライマックスなのですが、その後のエピローグ的な部分も読みごたえありです。サンドバッグが根本からちぎれてドスンと… 油断ならん作家さんでした(ほめてます!)
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  • 蛇蝎‐DAKATSU‐

    秋里和国

    これが私の生きる道…?
    ネタバレ
    2026年5月10日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 人に忌み嫌われる存在【蛇蝎(だかつ)】。そりゃそうでしょう、人を死なせるような情報を依頼人に流して、成功報酬を受け取る商売なんて。でもそのスキルはとんでもなく、蛇蝎の亜人(あびと)が他人の生年月日を認識すると、瞬時に気学上の属性や近しい人との相性、凶殺の方角をはじき出すようすは、まるで歩く気学アプリ。二千年超えの伝統のすさまじさよ…
    やがて亜人を敵視するヤクザや陰陽師たちとトラブルや戦いが起こるのですが、実は居合(いあい)道の有段者という亜人があらやだ!めちゃくちゃかっこいい!そして「気」と名乗る関西弁のおちゃらけ神サマみたいな存在(男前!)が特殊能力を発揮するし、おお!気学エンターテイメントで和製ダークファンタジー!!と拍手したい気分に。
    でも超能力合戦みたいになるのかといえばそうでもなく、中盤はお色気コメディ(亜人が迫られる)みたいになりつつ、お嫁ちゃん候補の流香ちゃんと絆ができていき(イチャイチャはないんですが、逆に手をつなぐだけでキュンとさせられました)京都の帯屋としての生活なども描かれているのが、とてもよかったです。
    ラストは「気」が全部持っていった?みーさまの扱いはあれでいいのか?とは少し思いますが宇宙の広大さからの、家族の幸せが見れてうれしい結末でした。
    作中の時代が主に平成22年前後ということで、当時はこんなだったな〜なんて思いながら読むのもアリ、また個人的に、たぶん暗殺業に心が苦しくなっているのに伝統を放り出せない、気を張って宿命を貫こうとする亜人の生き方が、若い時には理解できなかったと思うので、年食ってから読めてよかった。ご先祖さまのたてたお茶をのんで亜人がひと粒涙をこぼすところが印象的で、じわじわ不思議な感動がやってくる作品でした。
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  • ちびヨメは氷血の辺境伯に溺愛される

    月齢/八千代ハル

    イケメンにメロメロ、恋する幼児
    ネタバレ
    2026年5月3日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 恋愛モノで活躍する幼児といえば、恋のキューピッド的だったり、別れたカップルがヨリを戻す時の、子はかすがい的役割が王道かなと思うのですが、この幼児は堂々、家(というか国)の決めた婚約者のところへ乗りこみ(いや、助けられて連れて来てもらった)、幸せにも一目惚れで恋に落ちたので、主役として絶賛熱烈恋愛中です。もとは20歳、適齢期の若者ながら実家で能力なしと虐げられて、ひっそりと暮らしていた人が、旅の途中で襲われて死んだ(死にかけた)結果、なぜか推定3歳児に変身したという『んなわけあるかっ!』な事態なのですが、幼児化することで思ってることを口に出さずにいられない、感情ダダ漏れ機能が備わってしまうあたり、面白いなと思いながら読みました。おかげで『レオちゃまちゅごい!ちゅてき!ちゅき結婚ちて〜』の無限ループなのですが(笑) お相手の辺境伯は幼児の実家とは敵対関係で、婚約者にも気を許すつもりはまったくなかったものの庇護欲を刺激されたのか、優しく世話をやくもので、会話はコメディ的なノリも多いですが、大柄な男性が幼子を甘やかす脳内イメージで、チョロい私は幸せホルモン出ちゃう
    だがしかし! 私は(読者は)知っている。幼児ユーチアが大人に戻ったら可憐な美人さんだということを!! 辺境伯、今は余裕しゃくしゃくでユーチアを可愛がってるけど、大人に戻っても余裕持っていられるかな〜? いや〜もう、途中からその瞬間が楽しみで。そしてさらなる展開を知りたくなり1巻「初恋」読み終わってその日のうちに2巻「最愛」を購入するハメになりました。2巻は王都に行き、悪事を働く実家との攻防も見どころ。そして初夜は!?
    あー、楽しかった!!
  • 夜明けの星と詰まない初恋について

    尾上与一/木下けい子

    拾ったら、つかまれた(胃袋)
    ネタバレ
    2026年4月8日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 主人公はプロ棋士。
    B級2組というクラスにいて、トップ級ではないと思いきや…なんとこの男、同じプロ相手に必ずしも全力を出していません。そして恋に気をとられていたら【うっかり勝っちゃう】って…ワハハ、将棋知らんけど、たぶんとんでもない人だよ〜。
    なかなか重い、今につながるしんどい過去を持ってる彼ですが、ハーフの美形、父親は保険会社の社長さんで高級品に慣れているボンボン(坊っちゃん)です。不安定な関西弁(京都弁?)でよくおしゃべりしてくれますが、これが楽しい。棋士の日常やボンボン的なあれこれや、オカン気質の同居人に美味しいごはんを出されて、ほわんとほどけてる感じとか。
    屈折してクールな部分もありながら、根は素直で、面倒見がよくて、甘えたで、隠した情熱を持ってる彼がかわいらしいて、ずっとおしゃべり聞いてたいと思いました。同居人につい、告白してしまうところはいじらしくて、読者の私はもう、ニヤニヤするしかない(笑) 「いじわる」的なニュアンスの「◯◯ず」って言葉が不意に出てくるんですが、いや〜もう、けっこうなお点前でございました。ありがとうございます!(後になって両想い確定、さあ!…って時の会話もおもろくてかわいかった)
    そして実家の圧力をはね返すため、好きな将棋を突き詰めるため、逃げずに戦うと彼は決意したようで、タイトル挑戦となります。白熱した対局の描写はしびれた〜!「初恋をやりなおすにあたって」と同様、棋士のしんどさ、凄さ、喜びを感じとれるのが楽しかったです(将棋知らんのにな!)
    盛りだくさんな内容ですが、不運や理不尽と、好きなもの・あたたかいものとの絡まり加減がいいバランスで、読みやすく楽しい作品でした。番外編2本併録。
  • あめとつち

    庭田羊々

    低刺激、低カロリー?!
    2026年3月13日
    草木や空が何度も描かれて、気持ちの良い場所を想像させてくれます。
    雲の浮かんだ空や月がキレイ(雲のあるコマ多いですよね☁️)
    出会って意識するようになって、恋心を自覚するという、なんの変哲もない筋書き。びっくりするような事件はなく、欲情でクラクラしているわけでもなさそう。絵柄はシンプルで展開もよくいえば上品、場合によっては物足りない、そんな作品に感じます。
    でも、心地良かった。
    相手を尊重する気持ちと、先を急がないゆったりしたタイム感が、今の私には極上でした。
    ン十年前にやはりあっさり・ゆったりなんだけどチャーミングな某先生の作品がお気に入りでしたが、もう新作でこの気分を味わうことはないだろうと思っていました。今年、これが初単行本という作家様が、こんな作品を出してくださるとは!うれしいです。
  • 「妖奇庵夜話」シリーズ【全10冊合本版】

    榎田ユウリ/中村明日美子

    現代のあやかしの情とケジメ(と説教)
    ネタバレ
    2026年1月28日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 合本版。目次が各巻のサブタイトルになっており、そこから該当作のあたまに飛べます(表紙あり)が、私のように手動のしおり機能なしで読む場合は迷子注意。表紙と別に表紙カバー掲載(なぜか、ない巻も…)榎田・中村両先生のあとがき、各巻の文庫版初版発行日、合本版の奥付あり。
    内容は大満足。涼しげな美貌なのにくちのわっるい先生とチャラい若手刑事との毒舌漫才のようなコミカルさや都会的な話題のなか、暗い事件が起きていきます。差別や洗脳などの問題の対処の難しさや凶悪な犯罪の緊張感のなかで、異能を持ちながら悩みまくる、なんとも人間らしい先生の優しさが沁みました。以下、部分的ですがメモ。

    ●【その探偵、人にあらず】いったんもめんに会いたい妖怪好き/大人も叱られる/ホッペをつままれて/深夜の茶会/名付けられる喜び/ちゃんと探偵してる/特例妖人/ダイエット/女同士/5、6月頃/油取り/座敷わらし/つのつの
    ●【空蝉の少年】動物病院の支払い/先生がマメくんに甘々で、孫といるおじいちゃんかと思ってたらマメくんにとっては/にゃあさん/ブログ/占い/偽水晶/大食い選手権/五目寿司パーティ/浴衣/件(くだん)/二口女/ちょっぴりホラー味
    ●【魔女の鳥籠】スーツでテレビ出演/風邪で寝込む/子は親のものでない/母と娘・支配や依存/お母さんのこと大好きなかわいい男の子/火箸/タワマン上層と下層/オバリヨン/どうもこうも/ショウケラ
    ●【誰が麒麟を鳴かせるか】不安と幻影/弟、兄をかばってケガする/僕を見て/沖縄/神女/タリの息子/惜しみなく助ける/コツメカワウソ/可愛げ/刑事のデート/新興宗教/ヘイトスピーカー/洗脳/マインドコントロール/大掛かりな脚本/7人で食べる、たらいソーメン揚げたて天ぷら付き
    ●【顔のない鵺】・【ラスト・シーン】 白菜消費/雪平/出禁/まつ毛のとり方/被害者家族と加害者家族/復讐代行/火事/彼と先生の共通点/主、家令を振り切る/隠仁(おに)/なんて決着/寝たふり/どっちつかず/ただいまとおかえり
    ●【千の波 万の波】より『河童』・『閑話種々』 物々交換のための言葉/河童に海/離岸流/焼きそば目玉のせ/夜の海/そこで手なんかつながれたら泣ける/刑事に妖キ庵/10年経過の師弟/自分を自分に戻す場所/やっぱり泣けた/お茶の間まんが最高/読み終えるのがさみしいけど、明るい終わりに泣き笑い
  • うちの子は誰にもあげません! ~子育て事務官はもふもふしっぽにいやされる~

    朝陽天満/

    過激で可憐な子持ち事務官の身分差婚
    ネタバレ
    2025年12月19日
    このレビューはネタバレを含みます▼ ヒトと獣人および竜人、そのハーフたちが住む世界。魔力の話や魔獣がくり返し出てくるどっぷりファンタジーの世界です。攻め・受けとも辺境の騎士団で働いていて、有能な方たち。ヒト族の受けは山積みの書類を尋常でないスピードで片付けたり、舐めてかかってくる相手には実力で対応する一方、途中から新婚さん(ややワケアリ)としてなにかといじられて赤面… わちゃわちゃ感がアニメっぽくて楽しいです。
    3巻で夫婦は旅に出ることになりますが、高速で移動する手段とか、国境の関所でのハッタリとか好きな場面の連続です。獣人とヒトの見た目の違い、身分の違いが潜入作戦に活かされますし、攻めの実家の権力、子育てのある種の成果、形見の魔石、タイトル含めお膳立てがきっちり役立てられていい感じです。
    長いお話でシンプルにBLを楽しむには効率がいいとは言えないですが、鬼顧問と呼ばれる受けが夫婦の時間だと甘えてゆだねて、可愛い感じ。ふだんから攻めにモフモフしっぽをスルンと巻きつけられたり、さっと撫でられたり。受けも攻めの耳がピクリと動くのを楽しんだり、隣にすわってしっぽを撫でてたり。しっぽの功績は大きいと思います笑
  • 毒を喰らわば皿まで

    十河/斎賀時人

    すごいんだわ
    2025年12月11日
    1巻を無料期間に読ませていただきました!竜や王国が舞台のファンタジーが好物な一方、転生ものやゲーム的進行は不慣れで… アンドリムは記憶の戻る前は根っから悪辣だったっけ?とかヨルガはあくまでワンコで勝負に勝つためのコマってことでいいの?とか途中多少悩みながら笑、でもその気になったら人たらし、らつ腕アンドリムの仕込みの巧みさ、筋書きの面白さにグイグイ引き込まれて読みました。表紙絵も好き。続きも読みます。
    いいね
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  • 冬虫夏草(新潮文庫)

    梨木香歩

    旅する家守
    ネタバレ
    2025年10月27日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 序盤さっそく家守綺譚でおなじみの人々が登場。あの世の人高堂、マドンナダァリヤの君、寺の和尚(狸話!)、となりのおかみさん、編集者山内、新キャラ菌類オタクの南川それぞれと、主人公征四郎とのかけあいが、まあ絶好調(マドンナとは初々しさ最高潮) おお、コメディ風味をパワーアップされたのですね、と思ったけどそこじゃなかった。途中から征四郎一人旅。飼い主より格上のシゴデキ犬ゴローを探すため、またイワナ夫婦が営む宿に泊まりたい、と。鉄道で琵琶湖の東・能登川駅まで行きその後は歩く歩く。例のごとく人ならざるものと遭遇しますが今回は人との交流も多いです。「アケビ」の老夫婦プラス炭焼きのおじいさんとの会話なんてやたら心地良いです。妊婦で亡くなってしまった菊さんのパートは悲話なんだけど、霊になった菊さんにアタフタ、ドタバタする南川がいい味出してます。征四郎があちこちで優しいので、何度もほっこりします。
    旅の記録、神様や河童や里の人々との出会いの物語、家屋のようすや地域の生活・風習など色々な方向から楽しめます。そして征四郎が訪れたいくつかの村は今はダム湖の底に沈んでいるそうで(終盤、高堂が予言しています)失われていくものへの惜別・愛情の物語とも言えそうです。1つ不思議なのはダムが完成したのって昭和40年代みたいなんですけど…作者さま、いったいいつ現地を見られたのでしょうね? もしかして見てない? 見てきたとしか思えない空気感を感じますけれど…
    ラストシーン、喜びを爆発させる征四郎とゴローにこちらも幸福感いっぱいで読み終わりました。
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  • 家守綺譚(新潮文庫)

    梨木香歩

    切れ味よい文章にうっとり。だけど気になる
    ネタバレ
    2025年10月23日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 明治時代後半。亡き友人の実家で一人暮らしをする、売れない作家の男性が目撃・体験する不思議で妖しくて、美しかったりキテレツだったりするアレコレが描かれます。短めの文が多い、小気味よいリズムの文体がクセになります。短編集なもので最初のうちは唐突に終わりが来るような感覚になるのですが、慣れてくると結びの一文でやさしくストンと地上に帰されるよう。そんな快感に酔うごとく、読み進んで行くのですが… 作品世界になじむほど、どこまでが伝承や古い物語で、どこからが創作あるいは作者さまのホラ話かと気になる気になる! 植物の画像に始まって竜田姫と浅井姫の伝説、狸の七変化、詩の作者ロセッティなど検索しまくるハメに。植物の貝母(ばいも)の和名がアミガサユリ、と知ったときは作中の不思議な一軒家の女の「私は〇〇です」が腑に落ちたものの、某辞典的サイトで「化け狸」を開きそうになっている時は「私何してるのかしら?」と… 河童を運ぶゴロー(ワンコ)に和尚が言う「鯖の匂いのする道」は鯖街道のことだと思いましたが、河童の干物が弘法市で売られてたっていうのはホラ話? と思わされるあたり狸に惑わされているよう。作者の梨木先生こそ読者にとっての化け狸ですね、きっと。
    最終話「葡萄」で主人公はある宣言をして、それが祝福されているかのような大団円的シーンだったのてすが、最後ちょっと待って、これから亡き友や怪異なアレコレを作品にするのよね?と思うわけです。ですがそこで作品の序文の一行を思い出し… ああ、そういうことかとキレイに着地させてもらえました。にくいなぁ。
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  • 家守綺譚

    近藤ようこ/梨木香歩

    上巻読了/下巻も素敵
    ネタバレ
    2025年10月10日
    このレビューはネタバレを含みます▼ (※レビュー書き直しました)
    今からだと120年ぐらい前。
    疏水と小さな山と川があり、山の向こうには大きな湖があるところ。
    主人公の男性は庭に木々と水路と池のある、素敵な二階屋に住んでいます。
    そこで仕事もするけれどゴロンと横になったりごはん作ったり食べたり、縁側で釣りしたり駅まで郵便出したり。「家守綺譚」なんだけどちよっと「家守生活譚」。
    主人公が出くわすのは恋心を持つ庭のサルスベリとか亡くなった友人男性(あの世とこの世の境界を越えてくるけどホラーではありません)、陸だと平たくなってるカッパとかカワウソの血をひく男とか、多様性どころじゃないんですが。
    でもこの主人公、学士として文筆家として、貧乏でもプライドと気概を持っているものの(明治の人ですものね)、素直でおおらかといいますか、ドキドキしながらもあるがまま不思議な生き物や出来事を受け入れていきます。
    漫画版の上巻と下巻のあいだに原作小説を読んできたところ、小説もとても良かったですが、漫画だとビジュアルはもうそこにあるので、主人公のとなりで不思議を目撃している気分。そして表情や目線があるので主人公の優しさも、より分かります。穴ボコ状態のサルスベリやゴロー(後にスーパー仲裁犬になる飼い犬)のことをよく気にかけているし、カッパの女の子や七変化のタヌキにも優しかったしネ。
    そして風景。疏水べり、山道、ススキの原の満月、幻想的な水辺、川と疏水の交わるところなど、ゆっくりゆっくり、読みたくなります。
    最終話の彼の宣言「家を守らねばならない」はすぐにはピンとこなかったのですが、読み返しているうちーああ、きっとこの不思議な世界の、文明や開発が進むと追いやられてしまう者たちの居場所を少しでも守りたいってことねーそう思ったら胸があたたかくなりました。優しい物語でした。
  • 国宝

    吉田修一

    極道でも、役者でも。
    ネタバレ
    2025年9月17日
    このレビューはネタバレを含みます▼ やさしい語り口でテンポよく運ぶ文章がとても読みやすいです。ただし第一章は昭和時代ある地方の“組”同士の抗争の歴史から始まるのですが…

    極道の家に生まれた喜久雄少年は殺された父親の敵討ちに失敗(そして本当のカタキは別にいると喜久雄は知りません)したのち、歌舞伎役者の丹波屋・花井半次郎に預けられることになります。魅入られたように稽古に励み、数年後には半次郎の息子俊介をさしおいて、半次郎の代役をつとめるまでになります。(映画版を見た後だと舞台姿や劇場の昭和感などが目に浮かぶのでよいですね)
    その後俊介の失踪、半次郎の死と続き喜久雄不遇の時代になります。生まれや後ろ盾が大事な世界ですが喜久雄は自分の出自に負い目は持ってないんですね。喜久雄には世話になった恩は忘れないという信条があって、それは極道時代と変わらないというのが理由の一つのようです。そして世話になった人の借金は自分の借金だ、とスルッと1億以上背負い込んだりします。また祇園の芸者さんとの間にお子がいるものの「歌舞伎役者に隠し子がいたぐらいで誰が驚くねん」というのが一般的な価値観、という時代なのですが、年代とともに世相・風潮が変わっていくさまも当時の出来事、流行りとともにつづられていきます。
    その後も紆余曲折、山あり谷あり、幸せも苦しみも濃縮されたような人生なのですが、散りばめられたエピソードがなんだかとてもよくて、たとえばイビられ続けの喜久雄が映画に参加したら、ロケ先でさらに散々な目に遭う話とか、徳治(何者かは省略)の綾乃ちゃん(喜久雄の娘)救出作戦の顛末とか、中年期の喜久雄が15歳のころの俊介との会話を思い出しているところなど…
    下巻ではもう親戚ぐらいには喜久雄とその周囲の人たちに親近感がわいているし、彼らが幸せだとうれしくなるのですが、終盤ご本人は他の人が踏み込めない場所へ、行ってしまわれましたね…じわっと哀しみがにじむ結末ですが、立花喜久雄という1950年長崎生まれの、とある歌舞伎役者の役者人生をここまでいっしょに過ごせて幸せでした。
    長々とすみません、お読みいただいた方ありがとうございました。
  • 1945シリーズ番外編

    尾上与一/

    うれしい番外編祭り/シリーズ振り返り
    ネタバレ
    2025年7月27日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 祝・新装版1945シリーズ完結!
    5組10人の主人公たちから色々な感情が伝わりました。再レビューですが誤表記、思い違い等ありましたらお許しください。
    ◯郵便飛行機より愛を込めて(26編)
    【わたしの星】、【弟がかわいい話】は琴平家のお兄ちゃんが優しい。【星空地図と六等星】は予科練のユキ、【高嶺の星】は兵学校の資紀坊ちゃんがお互いに胸の中の星を思いながら頑張る話。資紀と新多の絆も。【郵便飛行機より愛を込めて】は米国へ運ばれる恒と六郎を観察する1人の米兵の視点。ワケノワカラナイ生き物と見なしていたのがいつのまにか… 琴平兄弟が再会する【桜雨】は衝撃的ながらホロリ。【甘い話】と【分類384】は坊っちゃんいったい、どんな顔でそのセリフ言うてます?とつっこみたくなる話。【あの日の火の花】2人の体験を考えたら、すっかり人が変わってしまってもおかしくないぐらいだと思うけれど、変わらない気持ちや思い出 【夢の残り香】体のキズと心のキズと。よく帰ってきてくれました。おかえりなさい、月光ペア
    ◯謹製ヘルブック(25編)
    ほぼ藤十郎と伊魚の彗星ペア。ヘルブック仕様、つまりイタしてる場面が多い!です
    【薄氷】伊魚の身の上と藤十郎に会ってからの逡巡。【a nine day's wonder】と【網の魚の処方箋】篠沢の影。自分は汚いと思う伊魚への処方箋は藤十郎に心のこもった言葉をもらうこと、かな 【冬の魚】2人で伊魚の実家へ。夜は離れで…。母の歓待に複雑な気持ちは抱くものの、藤十郎はある決心を。小さめの声で伊魚に切り出す「一緒に住むなら…」そして家を建てました ヨカッタネ
    ◯海鷲に告げよ(20編+まんが1編)
    【南方からの手紙】ムチャな飛行をする塁。その親代わりの衛藤と現地保護者城戸の手紙のやりとり。2人ともまだ若いはずだけど塁に鍛えられて?板についた保護者ぶり
    【元厄災の日】誕生祝。塁21歳、でいいのかな
    ◯拝啓、南十字星の下より。(28編)
    【風邪引きと餅】症状満載の恒、からの雑煮談義。最後に琴平家餅事件の犯人とおぼしき人がくしゃみをしてますが軍装なんです。戦争中だ!(当然) 時空がつながってあせりました。【拝啓、南十字星の下より。】六郎が家族に手紙を。たぶん幸せ色 【歩兵の本領】大変な状況で希望もあるかないかだけど必死に最善を尽くす話
    〜チーム1945万歳!アリガトウゴザイマシタ〜
  • 舞姫は暁に黄金の恋を紡ぐ

    尾上与一/もちゃろ

    「まるで物語のようだ」
    ネタバレ
    2025年6月22日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 設定がとっても凝ってます
    金を産み出す体質の一族が住む隠れ里、血を求められた過去、巫女のような役目の美形の舞姫(実は男子)、食べ物や動物にまで異世界感あふれて…
    ちょっと悲劇が似合いそうな設定ですが、しがらみを嫌う自由人ラジャン王子がまるで舞姫レネの運命を書き換えるかのように波乱を呼び込みます。ラジャン王子はうかつな面もあるけど、こうと決めたら一途。レネの恐れや勇気、頑固さをちゃんと理解してくれます。レネは舞姫の役目を終えたら神官になろうと考えていた人。欲がないことをお兄さんに心配されています。
    設定やハプニングについていくのが楽しいものの、2人のかわいい絡みもっとくださいと思っても後半更にハラハラの連続。襲撃された隠れ里は滅亡するのか、カタブツのレネは変わるのか、結婚できない状況を乗り越えられるのか…
    まさに怒涛の展開の結果、あきれるくらいに幸せ(物語のようなお話、なものですから)な、そして熱々の2人がいました。めでたしめでたし、でした。
  • 1945シリーズ

    尾上与一/

    1945シリーズのとりこになりました
    ネタバレ
    2025年6月15日
    このレビューはネタバレを含みます▼ とってもよかったのでレビューに挑戦!
    ◯天球儀の海/地方の旧家、離れに暮らす養子にきた若い男、冷酷な振舞いの跡取り息子。そして特攻の出撃までの残り時間は… なんかゾワゾワする流れと思ったら残忍な事件が起きます。とんでもない凶行なんですが、そこには隠された意図があって…というお話。ある人が犯人の真意に気づくところは心に染みる場面でした 年月を経てもうひと展開あり、ほろ苦さはあるものの意外にもあたたかな結末でした。作品の前半で幼い子が海辺で遊んでいて危険な目にあうエピソードがありますが、この時の最悪の「もしも」がそのまま事件の隠喩になっていて、全部読み終えた後思い出して「ああぁっっ!!」となりました。

    ◯碧のかたみ/ワルガキがパイロットになったような恒と、恒に振り回されつつ惹かれていく相棒の六郎。ケンカと懲罰の絶えない日常や南の島の基地での暮らし、空での戦いぶりなど読み応えたっぷりです BLの面でもはんぶんこして食べるパイン缶、雲の上の星空、手作りの線香花火、鼻歌の「星めぐりのうた」等キュンとなるシーンの宝庫なんですがさらに!
    「俺はもう俺の☓☓を決めたからいい」
    「…撃ち☓☓☓れた気がする」
    「☓心だ、馬鹿」
    等々、おノロケやおバカも含めてこれでもかと甘いセリフの数々が投入されています。試練も訪れるし、《その後》の日々には葛藤や苦しみもあるかもですがひとまず、青春のキラキラと恋の甘さ、2人のまっすぐな気持ちが印象に残る作品でした。

    ◯蒼穹のローレライ/塁がやっと望んだ夢は好きな人と穏やかに暮らすことーそんなささやかな夢すら持てなかったんですよね 塁の戦いと叶わなかった夢を思ってせつなくて泣きました。
    U字部品はノンフィクションと想像しましたがあとがきにも特に言及はなかったです。けれど作者様が多くの資料にあたり、体験者の話を聞く作業をされたと解りよかったです。当時のラバウル基地や日本の空気を吸っているかのような、充実したシリーズだと思います