このレビューはネタバレを含みます▼
ウザい彼は万華鏡だ。見る角度で見える景色が変わる。しかし万華鏡を回すには少し工夫がいる。もしあなたが「仏がカンダタに糸を垂らした理由」を考えるのが好きな人ならば、この書評は今すぐ閉じて、本作と向き合って欲しい。
素直に万華鏡を覗いた時に見える恋愛物語の主人公、後藤と美咲にはここでは触れない。人生物語の主人公、美咲と始に触れる。
彼らの人生の通低音は「孤独」だ。美咲の孤独は表層に顔を出している。家族との関係を姥捨山に捨て、孤独死する自分を見る。未来には始さえいない。美咲の初体験には諦念が滲む。望んでいた未来を諦め、一時でも始との快感に逃げ、孤独、家族への罪悪感から目を逸らす。ここで美咲は《世界でたった独り》から《始と世界で二人》になれた。これに気付いた時、「始しかいない」の訳、初体験で「ふふふ」と笑った訳、「始の顔が見えないと不安」な訳に気付く。キーワードは「この時間軸に後藤はいない」だった。「この時点の美咲」の未来に後藤との再会は無い。
始の孤独に気付くキーワードは「選ばれなかった理由」。ケン兄に選ばれなかった理由を「ケン兄はノンケだから」に求めた。では美咲に選ばれなかった理由はどう説明するのだ?中学時代に安全な避難港を持たなかった始は、人との繋がり方を間違って覚えてしまった。今の始は「それは危険、爛れている、子供の教育に悪い」と分かっている。君だってあの時は子供だった。
始と美咲はお互いが孤独という人生の嵐から退避する避難港だった。
始、見ろ。
美咲は自分の舟に乗り後藤の船と並走して外洋に行く。お前が選ばれなかった理由は、お前に価値がなかったからじゃない。届かなかったことと価値がないことは別だ。
始、自分のしたことを自分の目で見ろ。
お前の孤独は理解する。だが、それと境界を踏み越えたことは別だ。自分が踏み越えた境界から目を逸らすな。自分だけが知っている罪から目を逸らしてはいけない。そこから目を背けていては本物の救いは来ない。孤独だったことと、誰かを傷つけたことは、また別の話だ。
始、お前も自分の舟を持て。お前は孤独の港に取り残されるな。港の外を見ろ。お前も自分の櫂を握り、自力で舟を漕げ。孤独に喘いでも危険なブイや漂流物にしがみつくな。「【誰かと】繋がっていたい」じゃない。「【君と】繋がりたい」を見つけろ。
始にも唐揚げをぶつけてくれる誰かが現れてほしいと切に願う。