(2021年7月8日まで値引) 時は昭和初期に近いある時代(作者註)、所は吉原の料亭[幻月楼]。主役は老舗味噌屋の若旦那にして目元涼しい二枚目・升一郎と、芸事より怪談が得意な幇間にして実は役者並の容色の持ち主・与三郎。殺しや怪異な事件の解明
を軸に、二人の男の駆け引きの行方は …?と、ここまでで「王道か」と速断されるのは忍びない…。
今よりももっと夜の闇が深く、幻想と現実の境界がはっきりしない狭間にあるような世界。のらりくらり、引いては引かれ、いつまでも定まらない二人の関係に焦らされますが、それが不思議といい心地です。
「ああ、もうしょうがないお人だよ」「おいたをなさっちゃいけませんよ、若旦那」「この勝負、あたしの負けらしい」といった与三郎の口ぶりも物語の艶を深めます。
「切られの与三郎」という二つ名は、歌舞伎の「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」の主役から。体中なで切りにされた刀傷は誰によるものか。1巻で明かされるいきさつは凄絶で業の深さに鳥肌が立ちました。
『百鬼夜行抄』(1995-)も大概ゆっくりですが、この『幻月楼奇譚』(2004-)は3-4年に1冊!それでも待とうと思わせる、他では味わえない余情があります。
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