欲望を感じる相手から誘われたのに拒絶するキャンピオン伯。
この人ならと、身を投げ出そうとしながら、それでも結婚はしないと考えているヒロイン。
相手を互いに意識してぐるぐるしてしまったけれど、二度も、息子二人には興味はないとヒロインに言わせるシーンを設けたり、少々面倒臭かった。
スティーブンはこのストーリーでは結構やな奴で、息子二人は道化役とはいかないが、体のいい脇役に回った。
キャンピオン伯のxxxxアピールは相当だと思いたいが、スティーブンがタラシとしているので、ただ単純に他でもないキャンピオン伯その人に惹かれた、ということなのだろうが、どうも視覚的には見つめているというより、観察している、といった趣で、あまり二人の間に流れる何かを感じ取れなかった。文字数は割かれているのに。
こういうのはよくないと思うキャンピオン伯は正しいとはいえるし、さすがに気持ちの中だけに留め、安易に関係を進ませない分別を弁える、男という前に大人、なのである。
ディ・バラシリーズの中で男やもめとわかっている父、貫禄の登場、ということなら、内に秘める男性の激情、というか「枯れてないんだぞ」的ビジュアルはもっと欲しかった。でないと、ヒロインに、息子二人じゃなくて、と二度も言わせる彼女の目に映るものが伝わってこない。
キャンピオン伯がヒロインの髪に触れたい云々は、読んでいて萌える。スケートの場面なども、年頃の息子をゴロゴロ持つ父親が?、という冷静さを脇に置いて、気持ちが若々しくて良い。彼女の侍女との恋愛相談?会話も良かった。肝心のヒロインの、終始醒めた口調に見えてしまう説明体を、もう少し絵的にも表現して欲しかった。結婚するしないで一歩引いていたヒロインが、キャンピオン伯に絆されるさまが見たかった。
伯の、私のものだ、は、格好いいが、そこをもっと盛り上がりたかった。言葉がなければ口説かれる事とは言えないが、全身が発する欲しいと思う感情が表現して来られるのが口説かれるということなのに、迫って来るときの言葉以外の要素に、アピールが少ないような気がした。
追っかけて、映画マノンのようにじゃじゃ馬を腕づくでというシーンはあるものの、ヒロインが夢想した、伯のたくましい腕の中という念願が初めて叶った場面で、いまひとつ抱いていた欲望の顛末というか行方みたいなのが、ヒロインサイドから伝わらなかった。