絵柄が、勢いと細やかさが共存して、彼がモテ男であることを納得させる造形、ヒロインも大人なのにかわいさも失わない、愛嬌のある雰囲気。
近くで過ごす時間を重ねるほどに、親しみが増して、自分の意識の内から相手の存在を消し去ることができなくなっていく。
好きな人がモテる人だと、つい、我が身可愛さにポイされる日を恐れて、いや、そもそも、たくさんの彼女リストの末席に自分の名が加わることに無邪気に乗れず、発散される彼の魅力に背を向けていた。
橋本先生の描かれる男性はカッコいい。巧みなリードで、もう連れていってください、という感じ。
そして、繊細さ、ナイーブさも持ち合わせている。
一冊を充分に満喫した。
ハーレクインは本当に玉石混淆だけれど、この作品はバレンタインデー周辺の時期に、ビタミン剤のように恋愛エネルギーをくれる。
HQをコミックで読んでいる以上、どう描いているか、例えば、場面の切り取り方、構図の工夫、台詞の入り込み方、絵で表現されるからこそのビジュアル効果、ディテイルの扱われ方、どれもこれも、コミック的な魅力を発揮出来ていることを、期待している。
橋本先生はそういった、漫画の視覚的効果を生かされるのが巧みで、見て楽しい読んで楽しい一冊に仕上げてくださる実力者。男性の目元や口、立ち姿、などに、色気があるからか、バーチャルなのに恋愛追体験的な魅力溢れる。ヒロインの14年前の初恋の人ディランの絵柄にも男らしさがあふれ、写っていない骨太さや、声などにまで想像の翼が羽ばたいてしまう。
キスシーンだけで、二人の恋の盛り上がりが伝わってくる。
いちいちおじゃま虫が入る雰囲気から、この作品はコメディ感もあるが、二人きりでいると二人の間で始まってしまう何かを見せつけられて、恋愛気分の臨場感が煽られて、恋人と清算することになるヒロインの心の中に入り込める。
人付き合い広い人は、人に傷つけられることもまた多いというが、それは、女性たちがほっとかないプレイポーイにも当てはまるかもしれない。
彼の苦しみは13年も続いたのかと思うと、コメディだったのが違った色合いも帯びてくる。まさか知っていたとは、と、お母様の驚き、と同時に、あるときから難しくなった息子と母に母が納得。脇にある関係描写が自然にバランス。
彼が遠ざかる理由はドラマチックに取り除かれて、二人のこの先のことを想像できるエンディング。