命がけで戦ってきて、帰ってくれば恐ろしがられる。なんという試練なのだろう。人の噂のなんと無責任で暴力的な事か。
戦場に居合わせて、大勢の人を殺すか大勢の人が殺されるか、そんな世界から戻って、日常は穏やかになったのに、地獄の記念日(時期)が来ると、心の嵐を彷徨ってしまう人が表される。家族も当人も何事もないという方がおかしい。そんな幾つかの厳しくも辛い戦後が、津谷先生の優しいタッチで和らげられ、読んでいるこちらの戦争観は、買った負けたではない所を示す。過酷な経験を経て心身に重大なダメージを与えられてしまった被害者を生み出すものなのに、一方で、やっと、戻ってきても、民に感謝のされない行為なのかとの想いと、ヒロインのような心のケアを行う人の善意とが、帰還兵の社会復帰の環境。ヒロインの美しい心根や戦場経験者の彼の叱咤激励と共感とによって、トラウマは、時間はかかるが、乗り越え癒されていく。荒んだ心や人前に出られなくなったと思う外見の、その奥のものが、ヒロインの働きかけが大きなきっかけとなって、再びすさむことは無くなって来る。
年齢を重ねた分、お祖父様の、人を見る眼は広く深い。祖父孝行の彼の動機は、読み手の誰もが期待するようにヒロインへの感情の高まりとなって、彼の本心を揺さぶる。ヒロインの幼い日の憧れと、現実のものとなって降って湧いた、夢が現実化するかの結婚話。その過程で二人は相手が見えてくる。隔てるものはまだある。これからどう乗り越えるかなぁとの期待が盛り上がって行く。
理解させなければならない人たちが大勢いるが、すべて積み残して、二人の感情だけそろそろと滑り出して一巻はもう終わり。
勿体付けすぎ、の感もあるが、二人を取り巻く状況なら良くわかった。
そして、眼帯の、向こうの眼が、心の眼となって、心に傷を負った帰還兵を諭すシーンに彼のキャラがにじみ出て良かった。