このストーリーに登場する由緒正しい名家ヴァンカーク家、どこの名門もそうであるように、この家の人々はプライドが強かった。
誰もがヒロインの、ヴァンカーク家後継者キャメロンに寄せる想いを知りながら、そこは切り離していた。彼女のその出自ゆえに。
家の体質を嫌って家を飛び出していた彼が戻って来た。古い家の体面や誇りのためがんじがらめの生活から、自分を解放させたかったはずなのに、彼もまた、旧家の誇りは理解しており、一家の苦境のときには目を背けていられなかったのだ。
金持ちの典型的な傲慢さを隠そうとしない人達、お金の心配などしたこともなかった人達、貧乏転落への恐怖から、また恥ずかしさもあり、家の空気は一変。
家からもヒロインの想いからも逃げていた彼は、逃げられないような一家再興ミッションの重圧と、抗いがたいヒロインへ傾く感情とで、ヒロインに安易に気持ちがふらつく。
ヒロインの、叶わぬと知りながらも、彼への一途で断ち切れない恋心が、接触の機会あるごとに都度揺さぶられ、諦めている彼女の決意の邪魔をする。彼の関心のある素振りも未来があるわけで無し、結婚は別の道のはず、と、どっちつかずの彼へ余計な期待など持てず、切なくて辛い。
他の人など好きになれない。だから、結婚はしないで生きていこう。でも、せめて、彼の子だと思ってお腹の子を育てて行こうという。
彼が自分の気持ち中心で決心したあとの、ヒロインの心情を知るときの、ヒロインの恥ずかしさ、なんだかとても深く理解できる。なにより、当人にその事を知られたくはなかった。
でも、それゆえに、如何に深く愛していたかも、隠せなくなる。
貧乏転落の足音が近づいているとき、それに、そのあとそれが決定となってしまったとき、ヴァンカーク家の人々のときどきの反応に、言ってみればお話の世界の面白さもあるが、腹のすわった人間は小気味いい逞しさがあって良い。
最後が、裏切られたようで、ここだけハーレクインの調子のいいラッキーぶりが悪目立ちする。
ま、それも、ある意味、座りのいい結末ではあるのだが。。。